いつも、雨
「ごきげんよう。おばさま。」

木々越しに玄関に面した部屋は、恭匡の部屋だ。

窓辺の座卓で書のお稽古をしていた恭匡は、柔らかい梅の薫りで領子の訪れに気づいて、迎え出た。


「ごきげんよう。恭匡さん。まあ……立派になられて。この度は、おめでとうございます。」

領子は、涙を浮かべてそう言祝いだ。


恭匡は照れくさそうに会釈した。




兄はわざわざ茶室に炭を熾して、領子を待っていた。

「わざわざ、すまんな。おおきに。」

「いえ。去年、百合子の時も、お兄さま、わざわざいらしてくださったじゃありませんか。当然のことですわ。……もしかして……茶懐石ですか?」


何となくおだしの香りが漂っている。


「ああ。領子が来るゆーたら、竹原が手配してくれてな。……恭匡も好きな店や。」


……竹原……さっきは何も言わなかったのに……。

領子は、無表情のまま曖昧にうなずいた。



のしに包んだお祝いを差し出すと、恭風はおおらかに

「おおきに。すまんな。」

と、受け取った。



「ありがとうございます。」

恭匡は手をついて頭を下げた。


領子は笑顔を見せて、それから……と、小さな包みを差し出した。

「これは、わたくしから。……気に入っていただけるといいのですけれど……。」


「……?……ペンですか?」

包みの形状から、恭匡はそう尋ねた。


「万年筆ですわ。」

領子がそう答えると、恭匡の表情がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます。……ちょうど、欲しいと思っていました。」


お世辞ではなく、本当に恭匡は、万年筆の導入を考えていた。

勉強には不向きだし、これまでは不要だったが……大学生になる今がちょうどいい。



領子はうれしそうにうなずいた。

「そう。よかったわ。……モンブランじゃありませんけど……」


「ペリカン!」

恭匡は包装紙を開いて、目を輝かせた。


領子は、こっくりとうなずいた。


……かつて要人が使っていたのと同じブランドの中から、もっともスタンダードな1本を、領子は愛する甥に選んだ。

初心者の練習用としては高価かもしれないが、癖のない高品質な逸品は、書き味も良いだろう。

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