いつも、雨
「よかったなあ。……わしも、1本欲しいなあ。今度、見てこよう。」

何故か恭風も、万年筆を欲しがって見せた。



「失礼します。竹原さまがお越しになりました。……始めさせてもろて、よろしいですか。」

ふすまの向こうから、そう声をかけられた。


「そうか。頼むわ。」

恭風がそう声を張ったのを待って、すっと音もなく襖が開いた。


「失礼します。こんにちは。恭風さま。……恭匡さま、この度は、合格おめでとうございます。……領子さま……ごきげんよう。」

姿を見せた要人は、神妙にそう挨拶した。



「竹原。よぉ来たな。はよ、座り。こっち。こっち。」

恭風はうれしそうにはしゃいで、手招きした。


慌てて領子は恭匡の近くに寄って、要人のための場所をあけた。


「すみません。……お邪魔いたします。」

恭しく、要人は上座に座った。



ずいぶんと砕けた茶懐石が始まった。

運ばれて来たお酒も、京都伏見の酒だった。

未成年の恭匡も平気な顔で日本酒を味わっていた。


酒の銘柄も、料理人も……、お料理も、領子の好きなものばかり。

くやしけれど……さすがだわ……。

わたくしの好みを知り尽くしている竹原じゃなきゃ、こうはいかないわね。


とりすました顔でお料理を味わい、恭風と談笑する要人を、領子は幾度となく盗み見た。




「おや。ペリカンですか。」

要人が恭匡の膝元の万年筆に気づいた。


恭匡は、万年筆を手に取って少しだけ前に差し出して見せた。

「ええ。叔母さまがお祝いにくださいました。」

「……そうですか。それはそれは。」

意味ありげな目で、要人がちらりと領子を見た。


領子はうつむいた。


……やだ……。

竹原……誤解したかしら。

別に、わたくし、あなたの趣味に感化されているわけでも、それを甥に押し付けてるわけでもなくってよ。

本当に……いい万年筆だと思うから……。


と、説明するわけにもいかず、領子はただうつむいていた。

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