いつも、雨
幼なじみの3人は、その後もお酒を酌み交わしながら他愛もない話に花を咲かせた。


しばらくして、恭風(やすかぜ)が立ち上がった。

「はー。飲み過ぎた。横になりたいわ。領子(えりこ)、よぉ来てくれたな。ありがとう。一夫くんによろしゅう。……竹原。悪いけど、領子を送ったって。ほなな。おおきに。」


慌てて領子も立ち上がった。


……独りで帰れますわ……。

そう言いたかったけれど、背中に要人(かなと)の手の熱を感じて……領子は口をつぐんだ。





駐車場には紺色のベンツが駐まっていた。

珍しく運転手はいなかった。


「久しぶりね。竹原の運転。」

助手席のドアを開けてくれた要人に、領子は少女のような顔を見せた。


要人は苦笑した。

「自分でもびっくりするぐらい勘が鈍ってましたよ。……事故ったらすみません。」


「やだ、笑えないわ。それ。安全運転で、お願いしますね。」

領子はそう言って、くすくすと笑った。




要人は確かに、見るからに慎重に運転していた。

下手だとは思わない。

むしろとてもスムーズで上手いのだけど……要人自身にまったく余裕がないのがビシビシと伝わって来た。


怖いぐらい真剣な要人の横顔を見ていると、何となく、領子はイタズラしたい気分になった。

昔よくやって、怒られたように……領子は、そーっと手を伸ばし、要人の頬を突っついた。


二十歳前のつるんとした肌とは違う……45歳の男の肌……。


「……危ないですよ。」

要人が硬い声で注意した。


「はぁい。」

領子は昔のように、首をすくめて、おとなしく前を向いた。



ふっ……と、要人の頬が緩んだ。


「懐かしいですね。」


しみじみそうつぶやいた要人を見て、領子はほほ笑んだ。


「ええ。……ほんと。懐かしい。……お酒のせいもあるのかしら。……あら?ねえ、竹原?あなた……お酒、飲んでらっしゃらなかった?」


慌てる領子に、要人はしれっと言った。


「形だけ口をつけただけで、飲んでませんよ。」


……そうかしら。

普通に飲んでたように見えたわ。


……わたくし……見てたもの……。

竹原の喉仏が上下に動くのを。
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