いつも、雨
……わかっているさ。

百合子さまにとって、俺の存在がいかに取るに足らないか。


それでいい。

そのほうがいい。


要人は、領子の目尻の涙を指でそっと払って、言った。

「わかりました。では、何も言いません。……いや……。多少、百合子さまの邪魔をしましょうか。」

「邪魔って……。」

「……間接的ですが。義人が本命の女性へ、より傾倒するように……多少、煽ってみようかな、と。」


要人の説明に、領子は眉をひそめた。

「意地悪ね。竹原。……義人さん……本命って……いらっしゃるの?どちらのお嬢さん?」


ニヤリと、要人は笑って見せた。

「領子さまにも度々お話ししてます、保健室の夏子さんですよ。」


領子は目を丸くした。

「え!?だって……あの……保健室の夏子さんって、保健委員とかじゃなくって……先生なのよね?」


要人は苦笑した。

「そうですよ。養護教諭です。バツイチで、苦労してらっしゃるからか、若いのに、私が、真面目な話もできる落ち着いた女性ですよ。……愚息にはもったいないぐらい、素敵なヒトです。」



領子の眉毛がぴくりとあがった。


……未練たらたら。

絶対!

竹原も好きよね。

保健室の夏子さんのこと。



「……お気の毒さま。義人さんには随分と年上で、竹原には若すぎるってことね?……お綺麗なかたなのでしょうねえ。」

淡々としているようだが、明らかに領子は焼き餅を焼いていた。



おやおや……と、要人は眉尻を下げた。


「美人ですよ。でも、私にとっては、今は、よき話し相手という感じです。……そういや、領子さまのことも、彼女には話したことがあったな……。あの桜。彼女も、好きなんですよ。」

「……ええ。それも、昨年、伺いました。」



かつて、天花寺家の庭園に見事に咲いていた枝垂れ桜。

要人が、自社ビルを建てる時に、その桜と庭の一部を無理矢理残した。


これからもずっと、領子と2人で桜を愛でられるように……。


「あの桜……わたくしのために残したと仰っていたのに、大事な想い出ごと他の女性と共有するなんて……不愉快だわ。」


つんと、顎を突き出すように顔を上げて、領子はそう文句を言った。
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