いつも、雨
もちろん由未の一件は、他の者には一切口外しなかった。

母親の佐奈子にも、兄の義人にも、知らせなかった。


しかし、聡い義人は、一連のニュースとネット情報から、妹が心配になった。

幾人もの逮捕者を出し、活動停止になってしまった大学サッカー部には、かつて由未が片想いしていた男がいる。

逮捕された犯行者達の中に彼の名前は挙がらなかったが、組織的に、しかも常習的に、性的暴行を繰り返してきたとなると……脳天気に無関係だとはとても楽観視できない。


……まさか……まさか、由未は……大丈夫だよな?


すぐに、妹に電話をかけた。

しかし由未は電話に出なかった。


不安が疑心に変わり、悲痛な確信へと固まってゆく。


いてもたってもいられなかった。


義人は理由をひねり出して、わざわざ東京まで出向き、天花寺家に由未を訪ねた。



雨降って地固まる、と言ったところだろうか。

恭匡と由未は、恋人と呼ぶには初々しいが、やけに所帯じみた似合いの一対となっていた。



************


「正月も、こっちには戻らないそうです。……受験勉強に集中したいのでしょうが……初詣ぐらいには行くでしょうし、成人式用に誂えていた振袖を届けてやってもいいかもしれませんね。」


成人式を迎えるまでに、由未は既婚者になってしまうだろう。


由未と恭匡だけではなく、せっかく振袖を誂えて楽しみにしていた母の佐那子の気持ち考えた、義人らしい細やかな気遣いだった。


しかし要人は、興味なさそうに、上の空でつぶやいた。

「受験なんか辞めて、さっさと結婚してしまえばいいのに。」


コホンと、部屋の隅から、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。

秘書の原の非難がましい視線が、要人に突き刺さった。



「……まあ……お気持ちはわかりますが……恭匡さんはロマンティストですから……」

義人の当たり障りないフォローに、要人は眉をひそめた。

「まさか、入籍するまで……」

「社長。」

秘書に窘められ、要人は口を閉じた。



義人は肩をすくめて、うなずいた。

「とりあえず、まだ既成事実はないようでした。……半年以上同居してるのに、まどろっこしい気はしますが……それだけ由未を大切にしてくださってるのでしょう。」

「……ありがたいことだな。」

要人は苦笑し、心にもない言葉で締めくくった。
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