いつも、雨
「ご報告があります。」

前回の逢瀬の時と同じ言葉を、要人(かなと)は、領子(えりこ)の顔を見るなり、上機嫌で言った。


「……希和子さま、ですか?」

領子の問いに、要人は一瞬キョトンとして、それから、うなずいた。

「ああ、逢いましたよ。緊張してたし、家内(かない)の行き過ぎな歓待ぶりに驚いていたようですが、まあ、何とかなるでしょう。11月には我が家に迎えることになりました。」

最初とまるで違うテンションだった。


「そうですか。よかったわ。……でも、報告って、別のことですの?」


ふたたび、要人の頬が緩んだ。


……こんな竹原を見るのは、何だか久しぶりな気がするわ。


しげしげと眺められていることに気づき、要人は照れくさそうに笑い、頭を掻いた。

「すみません。浮かれてます。」


素直に認める要人に、領子は違和感を覚えた。


……子供の頃より、素直……。

久しぶり、なんてものじゃないわ。

竹原の、こんなに可愛らしい一面、わたくし……見たことあったかしら……。

激しすぎる愛情をぶつけ、注ぎ続けられているけれど……こんなに、かわいらしい竹原は、知らないわ。



「珍しいわね。あなたをそんなにも喜ばせるものって、なぁに?」

何となく、要人に合わせるかのように、領子は無邪気そうに甘えてそう尋ねた。



少女のような領子がかわいくて、要人は領子を腕に抱いて、まるでワルツを踊るようにぐるぐると回った。



……え……なに?なんなの?



戸惑う領子を置いてけぼりにしてることに、要人は気づかない。



「ちょ……。竹原……。ねえ。早く教えて?……ねえ。……きゃっ!」

要人のペースに乗れず、領子はつまづき、バランスを崩した。



慌てて要人は、領子を抱き止めた。

そしてそのまま、滑り落ちるように、床に座った!

ベッドもソファも、すぐ近くにあるのに、靴のまま人が利用するホテルの床に、だ。


高価なスーツが汚れることなど全く気にならないらしい。



さすがに領子の着物は汚れないように、要人は自分の膝というよりは、太腿に領子を座らせた。


そうして、落ち着いた深い紅に彩られた領子の唇を啄むように、口づけた。
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