いつも、雨
「愛しています。領子さま。とても……。」

心からの素直な言葉。


領子は、目をぱちくりさせた。

「……どうしたの?」


改めてそう問われて、要人は、ゆらゆらと揺れながら言った。

「うれしくって。ただただ、うれしいのですよ。昨日、恭風(やすかぜ)さまのお墓にご報告して参りました。」


「お兄さま?……では……恭匡(やすまさ)さん……?」


要人は、頬を上気させて、力強くうなずいた。

そして、くしゃっと顔を歪めた。

黒い瞳が潤んだ。



「恭匡さまと、由未が……結婚するそうです……由未が……、由未の受験が、終わったら……」


涙ながらにそう言った要人とは対照的に、領子の表情は固まってしまった。


胸の中に、形にならないもやもやが発生する。



……そう……とうとう……。



けっして、反対するつもりはない。

甥の恭匡が、昔から要人の娘を気に入っていたことは、よくよく知っている。

亡き兄も、要人も、良縁だと認識し、成就を望んでいた。



この春から、由未が恭匡の家に下宿をし始めたと聞き、要人が本腰を入れて2人をくっつけようとしていることもわかっていた。


未婚の男女を2人きりにするなんて外聞が悪い……領子は、叔母らしく、至極まっとうな反対を、一応は、した。


しかし、由未の手料理が、偏食の恭匡の健康状態を良化させてしまうと、もはや何も言えなくなってしまった。



愛する甥の身体を気遣って、領子は領子なりに心を砕いてきたつもりだったが……意固地な恭匡に対しては、無力だった。






「……おめでとう、と申し上げるべきかしら。……やっぱりお料理が作れるって、女性として大切ね。……百合子にも習わせるべきかしら。」

とげとげしい物言いに、要人は目を見張った。

そして、苦笑した。

「馬鹿な。何をおっしゃるかと思えば。アレの料理のスキルなんてたいしたことありませんよ。本格的に勉強したわけでもなし。……恭匡さまのもったいないご好意が、過分なスパイスになっているのでしょう。そもそも料理なんぞ関係なく、娘を気に入ってくださっていましたし。」


視線を逸らしたまま、小さく口をとがらせている領子は、拗ねているように見えた。


……やれやれ……と、要人は領子を抱き寄せた。


そうして、邪魔な帯を解き、背中を撫でながら言った。
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