いつも、雨
「俺は、領子さまの手料理を、食べたことがありませんけれど、……誰よりも、愛してますよ。……デリカシーがないとお怒りを覚悟で申し上げると、家内も料理はダメです。それでかまわないと思っています。……一夫くんも、そうでしょう?領子さまに、料理や洗濯を、求めますか?」


わざと、妻の佐那子や領子の夫の一夫の名前まで出して、要人は領子を涙ぐませた。


……意地悪だわ……竹原……。

ひどい。

どうして、わたくしに、わざわざそんなこと、おっしゃるの……。



黙ってぐずぐずと鼻をすすり始めた領子の髪を撫で、要人は、今度はなだめすかすように優しく言った。

「いいじゃないですか。百合子さまには、手を荒らしてほしくありません。領子さまのように、いつまでも、美しく、毅然と微笑んでいていただきたい。」

「それじゃ、ただのお人形ですわ。……役立たずと言われてるみたい。」



……かわいい……。

いくつになっても、要人には領子がかわいくて仕方ない。

49歳と43歳。

つきあいの長さと深さは、当たり前の熟年夫婦に負けない。

だが、安定とは無縁の関係……。

一生、恋い焦がれて、求めても、自分だけのもにはできない。

……だから、無責任にかわいいとだけ思えるのかもしれないな……。



領子の訴えの中に、そんなジレンマを感じて、要人は自嘲的に笑った。


そして、領子の両手を恭しく取った。

「それは違います。領子さまにふさわしい男になりたくて、俺は頑張ってきました。……一夫くんの会社が大きくなったのも、領子さまと百合子さまに何不自由ない生活をさせるため、でしょう。……あなたの笑顔に、俺たちは生涯を賭けています。その価値が、あなたにはあるということに他なりません。」


「……同じことですわ。宝石を贈られて、華美に着飾って、笑っていることが役目だなんて、やはりお人形じゃないですか。」


まだ不服そうな領子が愛しくて……先ほどより、深く口づけた。


キスで誤魔化すつもりはない。


唇が離れると、伏し目がちに吐息を漏らした領子のなまめかしさに、飽きもせず感嘆を覚えながらも、要人は言った。
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