いつも、雨
ひとしきり堪能したその後で、領子はぽつりと謝った。

「ごめんなさい。……わたくし……、嫌な女だったわ。」


腕の中で、小さくなっている領子は、要人には少女のように見えた。


「……どんなあなたも、俺にはかわいく思えますから、謝る必要は、ありませんよ。……恭匡さまのお相手が由未では、手放しでは喜べないのも当たり前だと思います。でも、領子さまは、……それでも、恭匡さまのお気持ちを尊重して、反対はなさらないのでしょう?……由未の父親としては、感謝しかありません。」

「そんな……。本当に、わたくし、由未さんに不満はありませんのよ。ただ……先ほどは、なんだか……百合子が不憫で……。……ごめんなさい。百合子は、関係ありませんのにね……。」

そう言って、領子はため息をついた。



他者との比較なんて、愚かしい。

自分は自分、他人は他人。

……と、領子自身のことなら、他人様との比較で、我が身の不幸を嘆くことはない。

しかし、母親の心は、また別だ。

どうしても、我が子を中心に考えてしまう。



同じ父親の血を引いているのに……たぐいまれな美貌の娘なのに……どこで、由未と差がついてしまったのだろうか。

よりによって、同じ父親の血を引く義人への不毛な恋を未だにあきらめられていない百合子が、かわいそうでたまらない。




涙ぐむ領子に、要人は優しくほほえんだ。

「……ええ。わかります。でも、杞憂だと思います。……百合子さまのお心はともかく……実際には、今年に入ってから一度も逢ってないようです。……それに義人はこれから、今度迎える養女の希和子の世話を焼くのに忙しいでしょうし……百合子さまと過ごす時間はなくなるでしょう。……このまま、フェードアウトすれば……そのうち、領子さまも、愚息のことなんぞ忘れて、他に目も向くことでしょう。」


「……そうかしら。……でも、わたくしたちは、空白時間が何年も……何度もあったのに、それでも、こうして一緒にいるわ。百合子は、竹原に似て、頑固で、なかなかあきらめてくれないんじゃないかしら。」


まだ不安そうな領子に、要人は言いにくそうに言った。

「あの子達は兄妹です。一緒になさらないでください。俺と領子さまは、違います。」


あら……と、ようやく領子は、得心したらしい。


和らいだ表情に、要人もまた安堵して、うなずいて見せた。

「だから、大丈夫。領子さまには、ちゃんと、ふさわしい男がいるはずです。」




領子もまた、うなずいて……それから、ため息をついて、ゆっくり目を伏せた。


「……わたくしたちも、いっそ兄妹でしたらよかったのに。」



不意打ちのつれない言葉に、要人は、また傷ついた。
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