いつも、雨
領子さまにはああ言ったが……忙しさは、逢わない理由にはならない……よな……。


確かに、あれから仕事以外のことに、時間を費やすことが増えた。

恭匡と由未の結婚が現実的になった今、やるべきことが山ほどできてしまった。

具体的なことが決まる前に、まずは各方面に根回しをして回らなければいけない。

いわゆる花嫁道具の類も、妻の佐那子は一切妥協するつもりがないらしく、日数が足りないとぼやいている。



何となく浮き足だち、気ぜわしいなか、竹原家は新しい家族を迎えた。


11月の連休に、要人は佐那子と2人で施設へ出向き、希和子を自宅に連れ帰った。


小さな女の子が1人増えただけで、家の中が劇的に変化した。

はしゃぐ佐那子と、浮かれる義人が、朝から晩までわいわいと希和子の世話を焼く。

希和子自身は、かつて要人や由未が通っていた学園に入学するための受験勉強で頭がいっぱいらしい。



要人は朝晩の挨拶ぐらいしか言葉を交わすことはないが、少女のぎこちない笑顔は、確かに心地よかった。

家族サービスとまではいかなくとも、要人の在宅時間が少しずつ増えていく。


気がつくと、領子以外の女性とは完全にフェードアウトしていた。




クリスマスも正月も、受験生の希和子を気遣いながらも、家族で過ごした。


百人一首の読み手をつとめるなんて、何十年ぶりだろうか。

そんな自分が滑稽で、ほほえましくて……要人は、マイホームパパを楽しみ始めてた。



受験当日の朝などは、応援の気持ちを押さえきれず、思わず希和子に手を差し出してしまった。

……激励の握手って……何をとち狂ってるんだ、俺は。

実の子供達の受験の時は、こんな気持ちにはならなかった。

いや、今日、東京で、由未もセンター試験に臨む。

なのに、由未には大学よりも、一日も早い結婚を求めている。



あの子が……何もかもに諦めている目をしていたあの希和子が、必死でがんばっている。

そんな必要ないのに、おそらく、我が家の一員になるための試練とでも思っているのだろう。

……幸せになるために、もがくことを覚え始めている……。


がんばれ。

がんばれ。



その日、一日中、要人は気が気でなかった。

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