いつも、雨
要人はそれ以上何も言わず、領子を抱き寄せて……誤魔化した。


無事に結納が済んだ今、既に収束した騒動を、わざわざ領子に語る必要もない。

喧嘩にもならない、稚拙な心のすれ違いで、由未は家出を決行し、無事に恭匡が探し出して保護した。

雨降って地固まる。

それでいい。

……まあ、今回のことは、いい教訓になっただろう。


裕福な家で、兄に甘やかされ、ろくなしつけもされず気ままに育った娘が、旧華族という名家に嫁ぐのだ。

舅姑は鬼籍とはいえ、親類縁者には口うるさい者が山といる。

早急に名家の嫁にふさわしくあるための教育を受けなければいけない。


いくら恭匡が惚れた弱みで由未に甘いとは言っても、外で恥をかくような振舞を見過ごすわけにはいかない。

由未個人の評判はともかく、これからは天花寺の家名を背負ってゆくのだ。

かつての百合子に対するほど厳しくはないだろうが、それでも執拗な教育が始まるだろう。



覚悟しろよ。

俺は一生かかっても手にできない家名をお前は手に入れるのだから。


要人は、実の娘よりも、やはり領子と、天花寺の家が最優先事項だということを、この婚礼で再認識していた。





だが、領子は少し違った。

領子自身が自己嫌悪に陥った以上に、娘の百合子は感じ入っていた。


大学生になる娘が、母親に相談することはなかったが、領子は百合子が塞ぎ込まないように、積極的に自身のボランティアや社交の場に娘を連れ回した。

と同時に、かわいい大切な甥の恭匡の幸せのために、そして天花寺の家名に恥じない婚礼にするために、領子はこれまで以上に忙しく立ち回った。


……犠牲になったのは、要人との時間……。



しかし、要人も変わった。

家族との時間を大切にすること、家族を愛すること、家族に尽くすこと……領子にとって当たり前のことが、ようやく要人にも心から理解できた。

とは言うものの、やはり、それはそれ、これはこれ。


2人の関係が途絶えることはなかった。
 
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