いつも、雨
「結局、娘が2人とも、天花寺家に入ることになるとは……さすがに考えていませんでした。」

白髪の増えた髪をくしゃっとかきあげて、要人は苦笑した。


やはり、年相応に落ち着いた笑顔で、領子もまた苦笑して見せた。

「本当に。由未さんと百合子……義理の従姉妹になって、異母姉妹らしくようやく仲良くなれたと思ったら、今度は正式に戸籍の上では母娘ですって。……しかも、恭匡さん、いまさら、わたくしにも、天花寺姓に戻らないかと仰ったそうよ。……変われば変わるものね。」

「ほう?それはそれは。恭匡さまも鷹揚になられた。では、一夫くんはまた改姓することになるわけですね。」

おどける要人に、領子は小さく首を横に振った。

「いたしませんわ。今さらそんな……主人の会社にも迷惑でしょうし。わたくしは、生涯、橘姓でけっこうですわ。」


生涯……。


要人の心が勝手にざわついた。



妻に対して何の不満もない。

娘夫婦に孫まで加わり、よりいっそう明るく賑やかになった領子の楽しい家庭をも、もちろん尊重している。


頭ではとっくにあきらめているはずなのに……。


それでもやはり、要人は、領子自身の口から、自分との再婚を完全否定されることは悲しいらしい。



本当に……俺は、いったい……このかたを、どうしたいというのだろうか……。


いくら自問しても、答えは出ない。

だから、要人は曖昧なほほえみを浮かべて、領子を抱き寄せた。


そっと背中にあてがわれた領子の手の温もりが、泣きたいぐらい愛しかった。











「おかえりなさい。お義父さん。」


帰宅すると、妻の佐那子より先に、養女の希和子が出迎えた。



控えめながら、明るい笑顔に、要人は目を細めた。


どうやら、今は、幸せらしいな……。


出会った時はやせっぽちな少女だった希和子も、もう高校生。

好きな男に一喜一憂するかわいい乙女だ。

……そして無意識に男を翻弄する立派な女に育ちつつある。

相手が息子の義人と思うと、最初から意図してたとはいえ、多少おもしろくない気もするが。



「ただいま。お母さんは?」

「今、マッサージチェアにかかってらっしゃいます。」


言ってる尻から、佐那子のスリッパの音が近づいてきた。
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