いつも、雨
優しく髪を撫でられながら……佐那子もまた、夫が自分以外の女性を想っていることを敏感に察知していた。

佐那子の中に、また一つ冷たい重い鉛のような感情が沈殿した。

やり場のない苦しみが積もり積もって渕となっても、佐那子は気付かないふりを通した。

それよりも、希和子が加わったことで、せっかく再構築し始めた幸せな家族の生活を守りたいと切実に想っていた。

家族との時間を大切にするようになった要人を、当たり前の父親、そして夫として、頼もしく、心から愛しく感じている。


今のこの幸せを大切にしたい……。


佐那子は、目を閉じて、ため息をつかないよう、浅い息をのみ込んだ。







翌日、異変が起きた。

ボランティア団体の婦人会の集まりに、領子が欠席した。

会合帰りの領子を要人のもとへ連れ去るはずだった秘書の原としては、手ぶらで帰るわけにもいかない。

原は人脈を駆使して領子の欠席理由を聞き出した。


「会には、家の都合、とご連絡されたそうです。」


それではよくわからない。

要人は無言で秘書に続きを促した。


「……社長が領子さまにお付けになっている江連(えづれ)に確認しましたが、今日は領子さまをお見かけしていないそうです。ご自宅からお出になられてないようですね。……お身体の調子が悪いのかもしれません。」

原の声のトーンが一段落ちた。



要人の眉根に深い皺が刻まれた。


仕方ない。

わかっている。

長い長い年月、この歪な関係を継続してきた。

望んでも逢えない日だって、数え切れないほどあった。


……だからといって、慣れるものではない。

心が、より強く領子へと向かうのを、要人は止めることができない。



お風邪でも召されたのだろうか。

領子さまのお心を痛めるような事態が発生してないといいのだが……。


沈鬱な要人の面差しを、原はなるべく見ないようにした。





翌日も、領子は外出しなかった。

それどころか、領子の夫の一夫も出入りしている様子がないと江連が報告してきた。

確認できたのは、娘婿の碧生がいつも通りの時間に大学へ行く姿のみ。



……一夫くん共々、体調を崩してらっしゃるのか?

百合子は?

大丈夫なのか?




会社でも家でも、努めて平静な顔をしようとしている要人を、秘書の原は哀れにすら感じた。
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