いつも、雨
要人(かなと)と領子(えりこ)は、どれだけ互いが恋しくとも、電話もメールもし合わない。

ただ、領子の日常に、要人が割り込み、夢のひとときを過ごすだけの関係が延々と続いているに過ぎない。


要人のジレンマは、秘書の原でも、他の誰でもなく、息子の義人に対して苛立ちを呼ぶ。

無論、ただの八つ当たりでしかない。


……さすがに気の毒だ……。

原は、なるべく義人にとばっちりが行かないよう心を砕いた。




夕方、未練がましく、要人はわざわざ、運転手に遠回りさせて領子の自宅の前を通らせた。

堅く閉ざした門扉に違和感を覚えても、黙って通り過ぎざるを得なかった。


「おかえりなさい。」

帰宅した要人を、妻の佐那子は微妙な表情で迎えた。


「希和子は、お友達と勉強か?……どうした?何かあったのか?」


養女の希和子が迎えに出て来ないときは、たいてい仲良しの男友達と受験勉強をしている。

佐那子は、彼らにも夕食を振る舞うべく、いつもは普段以上にはりきっているのだが……今夜は様子がおかしい。


佐那子は、困ったように首を傾げた。

「ん。佐那ちゃんは、勉強してるんだけど……んー……あのね、よくわからないんだけど……親方……一夫さん、今日、来られなかったの……。」

「一夫くん?」

要人は、逸る気持ちを抑えて、妻の説明を促した。


佐那子は、心なしかいつもより小声で続けた。

「お風呂場のヒノキがだいぶ傷んできたから、リフォームしたいと思ったの。それで、一夫さんの会社にお電話したの。いつもならすぐに親方が来てくれるのに、若い子が来てね。……聞いても要領を得ないのよね……。」

佐那子の言葉は歯切れが悪かった。

一夫本人に対しては打ち解けていても、その家族である領子や百合子への想いは未だに複雑で、とても自宅に電話をかけて事情を尋ねるわけにもいかないのだろう。

しかし、それは要人とて同じこと。


要人は注意深く言葉を撰んだ。

「由未は?……一夫くんに何かあったなら、恭匡(やすまさ)さまだったらご存知じゃないか?」
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