いつも、雨
「……もちろん、不安です。互いの健康も、それぞれの家族の生死も、私たちが一緒に過ごすためには重要なファクターです。しかし、どうあがいても、いずれ等しく死はやってくる。常に意識していますよ。常に考え、準備しています。……それでも足りないでしょうが。」
「ふーん?遺産け?」
泉の即物的な問いに対しても、要人は苦笑しつつ答えた。
「財産分与も含めて。……そもそも、寿命は計り知れませんから、あらゆるパターンを想定して準備してますよ。年齢でいけば私が先に死にますから。」
百合子が眉をひそめた。
「……では、もし、万が一、竹原のおばさまと、橘の継父(ちち)が、あなたがたより先に亡くなれば……母と再婚なさるおつもりですの?」
「百合子!」
領子が慌てて諌めた。
要人は、領子の手に自分の手をそっと重ねた。
「領子さま。……すみません、不快にさせてしまいましたね。大丈夫ですよ。何も変わりません。戸籍も、墓も、私はこだわりません。領子さまにの思うままに。……私は、ただ、領子さまのお側にいます。骨になっても、お側にいます。」
それが、要人の答えだった。
もちろん、互いの配偶者が、家族がいる限り、ずっと共に過ごすことは適わない。
しかし、心はいつも寄り添っていたい。
……そして、墓を掘り返しても、遺骨を盗み出しても、共に眠りたい。
要人の言葉を聞いて、百合子は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……では、わたくしは、墓泥棒に気をつけなければいけませんのね。死んでもしつこいのね。大変ね。……聞かなかったことにいたしますわ。……いえ、お母さまも、望まれるなら、これからも気づかないふりをいたしますわ。」
百合子は百合子なりに、母と要人の関係を受け入れる気になったのだろうか。
かつてなら考えられないような娘の譲歩に、領子は目を潤ませた。
「変な親子やなぁ。」
泉の率直な感想に、要人は我知らず微笑んでいた。
結局、2時間近くかけてタケノコ尽くしの会席を楽しみながら、わかったようなわからないような不思議な会話を交わした。
今度実際に競輪場へ行って泉のレースを観戦してみよう、と領子は心に決めて、娘の百合子と共にタクシーに乗り込んだ。