いつも、雨
車内で百合子が、ぽつりと言った。

「……ごめんなさい。」



何を謝っているのか、領子にも、百合子自身にもよくわからなかった。



領子は、そっと娘の肩を抱いた。

「わたくしには、あなたを叱る権利はないわ。あのかた……泉さんも、少し怖いけれど、悪いひとじゃないことはわかりました。かと言って、2人の仲を応援するわけにもいかないけれど。……碧生くんと、恭匡さんの信頼と、子供達を失わないように、お気をつけなさいね。」


百合子の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

あらあら……と、領子は先ほど使わなかった自分のハンカチを取り出して、娘の涙を拭いた。



「……ありがとうございます。うまく言えませんけど……わたくし、碧生くんの愛情にあぐらをかいている気がしますわ。一番大切なのに。本当に碧生くんが必要なのに。……でも、どうしても、今の泉さんをほうっておけないんです。……今は。」


領子は、首を傾げた。

「今だけなの?」



百合子は、ほうっと息をついた。

そして、領子の肩に頭を預けて言った。

「……正確には……わたくしと、睡眠薬なしで、泉さんが眠れるようになるまで……ですね。最近は、かなりよい状態になられましたけれど。……3年前に、泉さんのお弟子さんと結婚なさっていた、泉さんの義理の娘さんがお亡くなりになって……荒れてしまわれて……。」



……竹原の言ってた通り、本当に身近なかたが亡くなられていたのね。


「そうですか……。ああ見えて、繊細なかたですのね。……早く、立ち直られるといいわね。」


領子の優しい声が、百合子の心をほぐしてゆく……。



「……百合子、と、あのかたに、初めて呼び捨てにされましたわ……。」

「そうでしたね。」

「……すぐに、いつも通りに戻りましたけれど。」

「そうね。……ごめんなさいね。」

「お母さまが謝られることではありませんわ。……お母さまも、あのかたも……ご自分の選択に責任を持ってらっしゃるのね。……ようやく、最近、わたくし……お母さまのお気持ちがわかるような気がしています。」


……愛する夫以外の男性との関係を断ち切ることができない……それが、こんなにも苦しくて、こんなにも甘美で幸せなんて……。



「……罰が当たりますわ。わたくしも……お母さまたちも……。」

そう言って、百合子は嗚咽した。
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