いつも、雨
まいらは、にこーっと笑って答えた。

「あのねえ、学校から帰って来たら、由未ちゃんが神戸のお菓子くれたぁ。」


「ほう?恭匡(やすまさ)さまも一緒かい?」


まいらはぷるぷると首を横に振った。

つい今しがたの、妻の佐那子ととてもよく似ていた。



「恭匡のおじちゃまは、お仕事でお留守番で、由未ちゃんはおばあちゃんとお風呂入ったの。」

まいらの説明で、何となく察しがついた。


娘は、何らかの悩み事を、母親に相談したのだろう。


……まさか……恭匡さまに限って、浮気でもあるまいし……身体のことか?



「そうか。……じゃあ、まいらは、後でおじいちゃんと一緒に風呂に入ろうな。」

「うん!」

要人は立ち上がると、笑顔の孫の手を取り、歩き出した。





程なく息子夫婦が帰宅した。

元養女で、現在は嫁の希和子は、大学院を卒業した後も、研究室に籍を置いたまま、実家でもある寺の手伝いをして、毎日忙しく過している。


家族5人で夕食の後、まいらがいそいそと透明のプラケースに入ったクッキーを持ってきた。

チョコとアプリコットジャムの乗った2種類の花形のクッキーが並んでいる。



「ミッシェルバッハ!えー、どうしたん?これ。」

目ざとく、義人が店名を挙げた。


「由未ちゃんがくれたの。珍しいんやって。パパ、食べたことあるん?」

まいあが義人に尋ねた。


義人は、笑顔でうなずいた。

「もちろんあるで。昔は普通に買えたのに、最近は朝並ぶか、半年待ちで予約せなあかんねんろ。……恭匡さん、まさか、並ばはったんかな?」


「まさか!頂き物ですって。さ、いただきましょう。」

佐那子はそう言って、紅茶を入れた。



一口サイズの小さなクッキーは、あっという間になくなってしまった。


もっと食べたいと駄々をこねるまいあを希和子が諫めた。



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夜、夫婦の寝室に入ってから、要人は佐那子に尋ねた。

「由未は、苦しんでいるのか?」

単刀直入だった。


佐那子は逡巡して……要人に隠し事をすることはできないと、諦めた。

「……少し、困惑してました。あの、クッキー、神戸のお友達のあおいちゃんがくれたそうなんですけど……本当の贈り主は、サッカーの佐々木和也くんなんですって。」


佐々木和也……。

懐かしい名前だった。

娘の由未の、初恋の相手だ。

……もっとも、世間的には、一流の現役サッカー選手として、超有名人だが。
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