いつも、雨
なんだ。

持病の難病が進行したとか、免疫抑制剤の副作用がつらいとか、そういう話かと思っていたら……由未まで不倫か。


拍子抜けするとともに、何とも言えないおかしみを覚えた。


「それはそれは。……しかし、恭匡さまにバレたら大変じゃないか?」

笑いを堪えて、要人はそう尋ねた。


明らかにおもしろがっている要人を、佐那子は睨んだ。

「もう!そんなんじゃありませんから!……でも、万が一にも疑われたくないようでしたので、あのクッキー、うちに置いてってくれたの。……気の毒ですけどね。本当は、恭匡さまが召し上がりたかったみたい。開店前から並んだのに、買えなかったんですって。その話を由未があおいちゃんにしたら……ちょうど一時帰国していた佐々木和也くんに、伝わっちゃって。たまたまファンのかたにいただいたとかで、あおいちゃんにことづけてくださったそうなんです。」


佐那子の説明に、要人は眉をひそめた。


「恭匡さまが、自ら並ばれたのか。なんてことだ。言ってくだされば、こちらで何とか入手するのに。……いや、わかった。明日、早速買いに行かせよう。」


要人は、秘書の原に指示すべく、電話に手を伸ばした。

慌てて佐那子が止めた。

「もう遅いですわ。明日になさって。原さんは慣れてらっしゃっても、指示を受けられる社員のかたが気の毒よ。」


要人は、渋々あきらめた。



「……まったく……実の娘の悩みはおもしろがるのに、恭匡さまのことだと血相を変えて……わかっていますけれどね……妬けるわ。」

冗談っぽく呟いたつもりだったが、佐那子の悲哀は隠しきれてなかった。


要人は黙殺して、佐那子を抱き寄せた。



……ずるいヒト。

ええ、わかってるわ。

今さら、よね。

あなたには、家族より、会社より、天花寺家の方が大切。

……領子さまが、一番……。


とっくに還暦を過ぎても、こうして私を抱いてくださるのはうれしいけれど……同時に不安になってしまう。

領子さまとの濃密な関係も、続いているのだと。


……考えたくないのに……せっかくこうしてあなたを独り占めできる貴重な時間なのに……。


苦しいわ。

気持ちいいのに。

愛しいのに。



……同じぐらい、つらい……。




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