いつも、雨
佐那子に尋ねられ、由未はまた1つため息をついた。

「……言った。けっこう嫌なこと、言った。……何か、笑えてきたというか……低~い声で、『また、あおいちゃんに乗せられて』って。」

「それだけ?」

「うん。」

「……それ、答えになってへんと思うけど……。」


母に指摘されて、由未はしょんぼり凹んだ。

「……うん。何で、もっと気の利いたこと言えへんかったんかな。」



佐那子もまた、娘に対して、気の利いたことをとても言えそうになかった。


何もできなくて、……ただ、娘の両肩にそっと手を置いて、またお湯をかけてやった。

由未のなかに、今まで以上に重い後悔が生じてしまったことがよくわかった。


……かわいそうに……。

昇華できないもやもやが、心の奥底にずっとある。

それが、どんなにかストレスか……。

佐那子は身を持って知っている。

なのに、娘に、何もしてやれない。


もちろん、もう一度佐々木和也に会うことをけしかけることもできない。


言葉にできない想いを込めて、佐那子は娘の背中を撫でた。

由未は声を出さずに、涙をぽろぽろこぼした。


とっくに終わったはずの初恋なのに、これからも由未をさいなむのだろうか。

……せっかく、安定しているのに……。

娘の幸せを願う当たり前の母親として、佐那子もまた一つ心配事を増やした。







その後、由未の病気は悪化したと言わざるを得ない数値になってしまった。

それまで効力のあった新薬では、進行を抑えられないのかもしれない。

だからと言って、また別の新しい未承認薬を海外から取り寄せて服用することは、主治医に止められた。

効果の得られそうな新薬は、重篤な副作用が報告されているそうだ。


結局、ストレスを除外し、安静にして、症状が落ち着くのを待つことしかできない。


由未に対してだけ極度の心配症になる恭匡は、家事の負担を減らすため、人を雇い入れようとした。

しかし由未は、それが却ってストレスになるからと断った。

それに偏食の恭匡のために、食事の準備だけは他人に任せるわけにはいかない。




養子となった碧生・百合子夫婦や、実家から佐那子や義人・希和子夫婦もしょっちゅうやってきて世話を焼いた。

東京からは親友の知織が、神戸からはあおいも足繁く見舞いに来た。
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