いつも、雨
「つまり、転移している、ということですか。」

担当医からの説明に、要人の硬質な声が震えた。


痛みはそう強くないものの、喉の奥が張り付いたような違和感を覚え、佐那子はこれまでより少し低くなった声で、小さくつぶやいた。

「……酷いわよね。終わったと思ったのに、……後出しじゃんけんで負けた気分。」


落ち込むより先に、怒りが生じて……すぐに諦めた。


「ステージ4ね……。……まあ……それでも、一夫さんも、お元気やし……ただちに死ぬわけじゃないのよね……。」

喉の手術痕に手を這わせて、自分の声を確かめるように、佐那子は想いを言葉にする。


今回見つかった大腸癌も、ごく小さいものなので、開腹せず綺麗に取り切ることができると、担当医は力強く断言した。


「……お腹、切ってもいいから、悪いとこ全部取ってほしいですわ。……もう、なんでもこい、って気分です。」

佐那子は、開き直ってキッパリそう言った。


要人は、担当医の前なのに、たまらず、佐那子の肩をそっと抱いた。


……妻が不憫で……苦しかった……。




佐那子は、一度は退院させてもらえたものの、一ヶ月後、また入院と手術の予約をすることになってしまった。

自宅で安静にしておく必要はなかった。

むしろ今のうちに……と、孫のまいらと毎日のように出かけた。

美味しいものを食べ、欲しいものを買い、楽しいと思えることだけをするよう、家族は佐那子に勧めた。

しかし本来そう物欲があるわけでもない佐那子は、結局、孫のまいらの欲しがるものを買い与え、甘やかすことしかできない。



ある日、店先のかわいい子犬と子猫に誘われ、ペットショップに入った。

竹原家には、これまでペットがいたことはない。

要人も、佐那子の実家も、ペットの飼育経験がなかったため、幼少期の義人や由未が軽い気持ちで犬や猫を欲しがっても、世話ができないからと反対してきた。

「大人になって、自分の所帯を持ってから、自分の責任で飼いなさい。」

……そう言われて……結局、義人は動物よりも人間の女の子を愛でたし、由未もまた動物より手の掛かる恭匡で手一杯。

ペットを飼うという選択肢には至らなかった。


しかし、孫のまいらには、なんの制約もなかった。


動物園のふれあいコーナーでウサギやハムスターと遊び、ペットショップで子犬や子猫と戯れはしたが……まいらが欲しがったのは、小さな青い鳥だった。
< 487 / 666 >

この作品をシェア

pagetop