いつも、雨
「まいら。ここにいなさい。いや、家に、義人に言って、原に連絡を取ってもらいなさい。」


孫にそう言い含めてから、要人は青い鳥を見失わないように、早足で庭をつっきり、川岸へと降りる板戸を開けた。

セキュリティーの解除を忘れたため、たぶん邸内で警告音が鳴り響き、警備会社が連絡を寄越すだろう。


……たかが小さな鳥一羽だが、まいらや佐那子にとって、大切な家族だ。

黙って、見逃すわけにはいかない。



要人は、ボートに乗り込み、川を横断すべく漕ぎ出した。

大きな川ではないし、流れも急ではない。

すぐに渡ることはできた。

が、岸を上がってゆくと、再び、鳥がパタパタと羽ばたいた。


「いかん!イザヤ!こっちだ。いい子だから。おいで!」


鳥のイザヤが、ちらりと要人を見た……気がした。


「おいで。」

もう一度、優しく声をかけた。


「イザヤーーーーーっ!!!」

向こう岸から、まいらが叫んだ。

義人と希和子も駆け付けたようだ。


ずるり、と、要人の足元の土が滑り崩れた。

「お父さん!」

「危ないっ!」

「おじいちゃん!」


要人は、咄嗟に、すぐそばの雑木につかまり、滑落を免れた。

が、イザヤが飛び立ってしまった。



……年甲斐もなく奮闘してみたが……力、及ばず……か……




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「面目ない。」

病室で、要人は佐那子に頭を下げた。



佐那子は呆気に取られて、それから要人の両手を見た。

透明の絆創膏がいくつも張られていて、痛々しく血がにじんでいるのがわかった。



「……要人さんの責任じゃないわ。それより、手。頑張ってくださったのねえ……無理させて、ごめんなさい。ありがとう。」

そっと手を取って、佐那子は、傷のない部分を愛しげに撫でた。



「君が謝ることじゃない。」

「だって。私がお願いしたから……。」

「いや。写真は家で撮った。……庭の花を……。」



要人は、サンドイッチと水筒の入った大きな紙袋から、ピンク色の花合羽を取り出した。



「え!?……これを?要人さんが?」

「ああ、いや。私は庭で切っただけで……義人か希和子が包んでくれたんだろう。」
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