いつも、雨
要人は、ベッドサイドの椅子に腰掛けて、佐那子の寝顔を見守った。


小一時間が過ぎただろうか。

懐で要人の携帯がブーブー唸った。


慌てて要人は病室を出ると、談話室へ向かいながら電話に出た。

電話の相手は、佐那子の実家を継いだ政治家だった。

現在は親戚付き合いはしていないものの、恩を売れる程度に支援している。

どこから聞きつけたのか、佐那子の病気のことを知り、見舞いに来たいと言ってきた。

来訪を丁重に断わり、電話を切ったら、無意識に舌打ちが出た。


……彼らは、自分たちが佐那子のストレスでしかない存在だという自覚はないらしい……。

こんな時に、しょうもないことで煩わせたくない。

ただでさえ……まいらの鳥を逃がしてしまって、気ずつないのに。



佐那子の病室へと戻ろうと歩いている要人に、病棟のスタッフが声をかけた。

昼食が終わったかの確認と、お茶の取り替えを申し出てくれた。

ついでに、ナースステーションに寄って、お風呂の順番を後回しにしてもらうようお願いした。

「わかりました。お辛そうなら、お風呂は明日にしてもけっこうですから。朝、微熱があるようでしたので、もう一度、検温に行きましょうか。」

そう言って、年嵩の看護士が佐那子のカルテを準備した。


すぐに来るつもりらしい。

まだ寝てるかもしれないが……。


時計を見ると、既に13時半を過ぎている。

さすがにそろそろ会社に戻らないと、秘書の原に怒られてしまいそうだ。

可哀相だが、声をかけて、一旦引き上げるとするか……。



思案しつつ佐那子の部屋に戻ると、ドアが開いていた。

先ほどのスタッフが、大きなやかんを持って来てくれていた。

「ありがとうございます。」

小声で礼を言うと、ベッドのほうから佐那子の声がした。


「要人さん?よかった。まだ、いてくれたのねえ。」


この部屋は、廊下からドアを開けても、室内の専用トイレの個室の壁とロッカーで目隠しされていて、すぐにベッドは見えない。

洗面台とロッカーの間を通り抜けて、ロッカーの角を曲がると、ソファセットがあり、続いて病人用のベッドと、その奥に付き添い用の簡易ベッドが置かれていた。


佐那子は、お茶を取り替えてくれたスタッフに頼んで、ベッドをぐるりと囲んだカーテンを全開にしてもらっていた。

明るい光が部屋中に満ち溢れ、佐那子の顔色も先ほどよりずいぶんと明るく見えた。
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