いつも、雨
少しほっとして、要人は佐那子のそばに座った。

「ただいま。楽になったみたいだな。よかった。……少し、食べるか?」


重箱を引き寄せて、佐那子に見せた。


佐那子の顔がぱっと輝いた。

「食べる!うれしい!ありがとう!……でも、要人さん、食べてはらへんの?おなかすいてない?大丈夫?」


確かに、腹が減った。


要人は苦笑しつつ、割り箸を割り、佐那子の好きそうな炊き合わせの中から味の染みた鯛の子をつまみ、妻の口元へと運んだ。

佐那子は、慌てて口を大きく開けて、鯛の子を食べた。

静かに咀嚼して、幸せそうに微笑んだ。

「美味しい~~~。」


つられて、要人の口元も自然に緩んだ。


「よかった。もっと食べなさい。どれがいい?……私は、後で、車の中でも食べられるから。」

「はぁい。ありがとう。じゃあ、うーん……鴨。あーん。」


自らそう言って口を開いた妻に、要人は鴨ロースを食べさせてやった。


「お米も食べたい。」


小さな俵型に並んだご飯を口に入れてやると……なぜか、佐那子の目が大きく見開かれた。


「どうした?喉、つまったか?……お茶、お茶……。」


慌てて、奏人は重箱と箸を置き、水筒から那子の湯呑みに温かいお茶を入れようとして……佐那子の視線の先が固定されていることに気づいた。


振り返ると、そこには3人の人影。


先ほどの看護士と、橘一夫と……領子(えりこ)が、一様に驚いた顔をして突っ立っていた。


……。


さすがに、頭が真っ白になってしまった。



よりによって、妻との懇ろなやりとりを、領子に見られてしまうとは……。



……。




……。




……。



取り繕う言葉も出てこない。


それどころか、どんな顔をすればいいのか……。






沈黙を打破したのは、看護士の咳払い。



佐那子が慌ててご飯を飲み込み、頭を下げた。


「こんにちは。来てくださったんですねえ。わざわざ、すみません。ありがとうございます。」


それから佐那子は、固まってしまった要人の手から、そっと水筒と湯呑みを取った。




「なんやなんや。奥さん、元気そうやなあ。それに、えらい仲良さそうで、けっこうなこっちゃ。」

からからと笑って、一夫が冷やかした。



領子は、アルカイックスマイルを貼り付けて、頭を下げた。
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