いつも、雨
「油断しちゃいけないよ。」
一応そう言っておいたが、まいらはへらへらと笑って、まだ見ぬ鳥に思いを寄せていた。
***********************************************
翌日は、朝食をとってすぐに家族揃って病院へ行った。
既に病室には、娘の由未も来ていた。
佐那子は既に手術の準備を整えられていて、家族の到着を待っていたようだ。
家族が揃ったのを見て、看護師がベッドを動かし始めた。
「え?もう行くの?」
驚くまいらの両肩を、義人がそっと掴んだ。
「そう難しい手術ちゃうらしいからな。すぐ終わって、すぐ帰って来はるわ。」
「うん。お腹切らなくてもいいの。穴開けるだけでいいから。大丈夫よ。まいら。いってくるね。」
佐那子は、ひらひらと笑顔で手を振った。
要人は思わずその手を握った。
「待ってる。がんばれ。」
もちろん、がんばるのは医師や看護師達で、佐那子は寝てるだけ。
決してふさわしい言葉ではなかったが、とにかく励ましたかった。
要人の気持ちは、佐那子にも、見守る家族にも伝わった。
「いってきます。」
目尻に涙をにじませて、佐那子は手術室へと入って行った。
手術は2時間で終わった。
本当にあっさりしたものだった。
麻酔もすぐに切れたらしく、家族の呼びかけに、佐那子は目を開けて、うなづいて見せてから、また目を閉じた。
執刀医からの説明は、要人と義人だけが聞いた。
びたん……と音を立てて、目の前に置かれた大腸の一部は、大きなナマコのようだった。
「けっこう大きく取られたんですね。」
義人が驚いてそうつぶやいた。
予想以上に大きな塊に、要人も絶句していた。
しかし医師はあっけらかんとしていた。
この程度の摘出は、まったく問題ないという。
「癌を少しも残さないように、取りました。これでもう大丈夫ですよ。」
医師のお墨付きに礼を言い、こっそりと謝礼を渡してから、病室に戻った。
佐那子は眠っていた。
これでもう大丈夫……か……。
確かに、今現在、佐那子の身体には癌がない状態だ。
しかし、いつまた新たな癌が発生するのか、わからない。
橘一夫のように、薬で小さく抑えられれば、あるいは今回のようにすぐに摘出できればいい。
……寿命が尽きるのが先か……癌に蝕まれるのが先か……。
とても他人事ではない。
要人とて、自分の老いは自覚している。
精神的にはまだまだ強いつもりだが……息子の義人に対するわだかまりの中には、頑強な身体への妬みもあるのかもしれない。
いずれにせよ、一段落だ。
一応そう言っておいたが、まいらはへらへらと笑って、まだ見ぬ鳥に思いを寄せていた。
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翌日は、朝食をとってすぐに家族揃って病院へ行った。
既に病室には、娘の由未も来ていた。
佐那子は既に手術の準備を整えられていて、家族の到着を待っていたようだ。
家族が揃ったのを見て、看護師がベッドを動かし始めた。
「え?もう行くの?」
驚くまいらの両肩を、義人がそっと掴んだ。
「そう難しい手術ちゃうらしいからな。すぐ終わって、すぐ帰って来はるわ。」
「うん。お腹切らなくてもいいの。穴開けるだけでいいから。大丈夫よ。まいら。いってくるね。」
佐那子は、ひらひらと笑顔で手を振った。
要人は思わずその手を握った。
「待ってる。がんばれ。」
もちろん、がんばるのは医師や看護師達で、佐那子は寝てるだけ。
決してふさわしい言葉ではなかったが、とにかく励ましたかった。
要人の気持ちは、佐那子にも、見守る家族にも伝わった。
「いってきます。」
目尻に涙をにじませて、佐那子は手術室へと入って行った。
手術は2時間で終わった。
本当にあっさりしたものだった。
麻酔もすぐに切れたらしく、家族の呼びかけに、佐那子は目を開けて、うなづいて見せてから、また目を閉じた。
執刀医からの説明は、要人と義人だけが聞いた。
びたん……と音を立てて、目の前に置かれた大腸の一部は、大きなナマコのようだった。
「けっこう大きく取られたんですね。」
義人が驚いてそうつぶやいた。
予想以上に大きな塊に、要人も絶句していた。
しかし医師はあっけらかんとしていた。
この程度の摘出は、まったく問題ないという。
「癌を少しも残さないように、取りました。これでもう大丈夫ですよ。」
医師のお墨付きに礼を言い、こっそりと謝礼を渡してから、病室に戻った。
佐那子は眠っていた。
これでもう大丈夫……か……。
確かに、今現在、佐那子の身体には癌がない状態だ。
しかし、いつまた新たな癌が発生するのか、わからない。
橘一夫のように、薬で小さく抑えられれば、あるいは今回のようにすぐに摘出できればいい。
……寿命が尽きるのが先か……癌に蝕まれるのが先か……。
とても他人事ではない。
要人とて、自分の老いは自覚している。
精神的にはまだまだ強いつもりだが……息子の義人に対するわだかまりの中には、頑強な身体への妬みもあるのかもしれない。
いずれにせよ、一段落だ。