いつも、雨
何も食べられない。

好きなものを食べられる分だけ食べればいい……そう言われても、お茶ですら気持ち悪い。


「つわりの時よりしんどいみたい……。」

弱々しいつぶやきすらかすれて聞こえる。


佐那子はどんどん痩せ衰えてゆく。


髪が抜けることはなかったが、一気に白髪は増えた。

染めなければ、ほぼ真っ白だ。


そのうち、痩せすぎて、元気だったはずの内臓までもが支障をきたしはじめた。


家族は心配して、要人も、義人も、希和子も、嫁いだ由未までもが、毎日のように、佐那子の食べられそうなものをお土産に買ってくるが、やはり無理やり口にしては、嘔吐を繰り返した。



そこまで苦しんで、体力を損なってまで、する必要がある治療なのだろうか。


……誰しも疑問を感じてはいたが、治療の中止を勧めることはできない。

再発しないでほしい、1日も長く生きてほしい。

それが家族の願いであることは間違いない。


佐那子もまた、家族の想いをよくよく理解して、苦しさに耐えて治療を続けた。







ジメジメと雨の降り続く、蒸し暑い梅雨の夕暮れ時。

佐那子は、激しい腹痛を訴えた。

体をくの字に折り、とても耐えられない痛みに救急車を呼ぼうとした……が、この暑さなのに脂汗すらかいていないことに、希和子が気づいた。


「脱水症状!?おかあさん、ちょっと待ってて!水……いえ、確か、粉末ポカリがあったはず……すぐ持ってきます!」

パタパタとスリッパの音を立てて、希和子がキッチンへ駆ける。


まいらは、オロオロして、佐那子の背中をさすった。

「おばあちゃん、痛い?しんどい?暑い?さぶい?」


何とかしてあげたい……そんな孫の気持ちがうれしくて、佐那子は無理やり笑顔を見せた。


「ありがとう。……そうね、自然の空気が吸いたいかな。」


それを聞いて、まいらは慌てて、庭に面した大きな掃き出し窓を全開にした。


むわっとした湿気と雨の香りが、部屋に入り込んできた。


忙しく動いたまいらの肩から、鳥のイザヤ2号が不器用に飛び、ひょろひょろと床に降り立った。



「お母さん!飲んで!まいら!網戸にしないと。イザヤが逃げるわよ?」

ポカリスエットを1リットル作ってきた希和子が、佐那子を支え起こしながら、慌てて娘に指示を出す。
< 508 / 666 >

この作品をシェア

pagetop