いつも、雨
春が来た。


要人は、学園の期待に応えて、本命だけではなく、いくつもの難関大学に合格して実績を残した。

そしても恭風も、旧帝大というわけにはいかなかったが、一応希望通り、京都のマイナー国立大学に合格した。

恭風は、いそいそと京都へ旅立った。


要人は、予定通り、天花寺家を出るつもりだった。

とっくに目星をつけていた部屋をいざ契約する段になって、保証人欄への記入をお願いしたところ、天花寺のご当主はペンをテーブルに置いてしまった。

そして、ばつが悪そうに言った。

「その……母も、恭風もいなくなって、家の中が淋しいというか……不用心なので……君さえよければ、このままここに住まないかね?」


……そう来たか。

正直なところ、寝耳に水というわけでもなかった。

要人はいささかやり過ぎてしまったようだ。

大奥さまがお亡くなりになり目に見えて困窮する天花寺家を見て見ぬふりもできず……要人はアルバイトで得たと称して毎月、高校生にしては多額の金を当主に渡し続けた。

2学期の間は月に5万円ずつ、夏休みと冬休み以後は月に10万円。

毎日その100倍以上の数字を動かし莫大なあぶく銭を得ている要人にとっては些細な金額でも、現在の天花寺家には貴重な金づるのようだ。


……まあ……いいか。

正直、独り暮らしのほうが気楽だ。

しかし、天花寺家には、領子がいる。

それだけで、要人には充分な理由になる。


「わかりました。それでは、これからもよろしくお願いいたします。」

要人は、恭しくそう言って、頭を下げた。


「……そうか。あの部屋は手狭だろう。……母の使っていた隠居部屋に移るといい。」

驚いたことに、当主は、庭に面した日当たりのいい客間を要人に宛がおうとしていた。

現在の使用人用の三畳間の3倍はありそうだ。


「ありがたいお申し出ですが……身に余ります。どうか、今のままで……。」

そう断ってみたけれど、当主は柔らかい笑顔を張り付けたまま、笑ってない目で言った。

「いや。母も、君に使ってもらえたら嬉しいだろう。……その代わりと言ってはなんだが……娘の勉強を見てやってくれないかね。」

ドキッとした。
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