いつも、雨
「……領子さまの……家庭教師、ですか?」

恐る恐るそう尋ねると、当主は慌てて手を振った。

「ああ、いやいや。君も学業やアルバイトで忙しいだろうから、たまに、でいいんだ。……娘はあまり……その、勉強が得意じゃないらしいんだがが……」

言葉を濁しながらも、察してくれとばかりに、当主は要人に肩をすくめて見せた。


なるほど。

家庭教師を雇うどころか、塾に行かせる金もないわけだ。


要人は、必要以上に真面目な顔でうなずいてみせた。

「わかりました。しかし、たまに拝見したところで、お役に立てるものでもありません。……領子さまにはご負担かもしませんが、学習は日々の予習復習が大切ですから、週3日2時間ずつ、で如何ですか?」

「そんなに……いいのかい?」

当主の顔は、明らかにホッとしていた。


要人は善良な笑顔を張り付けて、うなずいた。

心の中では、舌なめずりする男の部分と、堂々と夫妻の目を憚らずに領子と会話できる権利を勝ち得た天使が、手を取り合って狂喜乱舞していた。




それは、領子も同じだった。

領子には、母親から告げられた。


要人が出て行くのを辞めた……それだけでも、うれしくて飛び跳ねたいのに、家庭教師って!

さすが、お兄ちゃん!

すごいわ!


いつの間に、頑なだった両親の信頼を得たのだろうか。

ただ使用人として便利使いされているだけなのだが、領子は要人の強さと優秀さに感激してうち震えた。

にやけそうな頬を手で押さえて押しとどめた。

しかし、よろこびでキラキラと輝く瞳だけは隠しようもなく……母親に、くれぐれも、勉強中以外は親しくしないようにと何度も釘を刺された。





長い春休みを、要人はバイトと称して環境を整えた。

例の物件は断ってしまったが、大学の近くに新築マンションの1戸を買った。

……未成年の要人には保証人なしでの賃貸契約はできないと言われ……めんどくさいので即金で購入した。

不動産屋も管理会社も、それ以上文句を言わなくなった。



自分の城を得たからと言って、贅沢するつもりは毛頭ない。

ただ、電話やパソコンなどの機材と、何よりも会社組織にするための本拠地の住所が必要だった。

ブラインドやカーテンさえないガランとした部屋で、要人はただひたすらに数字の桁を増やすことに腐心した。


それは受験勉強よりも根気とモチベーションが必要だが、誰かの作ったゲームソフトの攻略よりもやりがいがあり、達成感が得られた。
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