いつも、雨
義人は、苦笑して見せて、それから優しく言った。


「謝ることちゃうわ。もう充分がんばってくれたやん。……てゆーか、抗癌剤やめたかて、今、癌があるわけちゃうねんから、再発するとは限らんやん。悲観せんと、家族みんなで楽しいこといっぱいしよう。」



「うん……うん……」

佐那子は何度もうなずいて、孫のまいらに手を伸ばした。


慌ててまいらが両手を差し出して、しっかりと佐那子の手を握った。



佐那子は、孫にも謝った。

「まいら、ごめんね。イザヤのこと。私のせいで。ごめんね。」



まいらは、ぶるぶると首を横に振った。

「おばあちゃんのせいじゃない。私が悪い。羽根切ってるから大丈夫って……。」



それ以上の言葉を続けることができず、まいらはまた新たな涙をポロポロ流した。



事情をまだ知らない義人や要人、由未夫婦に、希和子が小声で伝えた。


「……猫にイザヤが襲われたそうなんです。」

「猫!?」

「野良猫ってことか?」

「……え……警察から預かってた鳥?……死んだってこと?」

「……由未ちゃん。」


やんわりと夫にたしなめられて、由未はあわてて口をつぐんだ。


この場で死を話題にするのは、たとえペットのことでも相応しくない。




「……かわいそうに……。」

要人はそうつぶやいてから、小声で希和子に言った。


「逃げた鳥はどこぞで生きてると信じたいが、今回はそうではないのなら、ちゃんと供養してやったほうがよかろう。……目撃してしまった、まいらもつらいだろう。……孝義くんから、また励ましてもらえるといいのだが……。」



希和子は神妙にうなずいた。



*************************************************************


夏か来た。


抗癌剤治療をやめてしまった佐那子は、少しずつ食事の量も増え、元気になってきたようだ。


まいらが夏休みに入ると、自宅と庭だけでなく、孫と一緒に外出もするようになった。


……とりあえずは落ち着いた……と思っていいだろう。



要人は、思い出の地である貴船の川床に、領子(えりこ)を誘い出した。
< 511 / 666 >

この作品をシェア

pagetop