いつも、雨
「……子供も思い通りにならないのに、孫に道を強制できるわけがありませんね……。」


要人の自嘲に、領子は至極真面目にうなずいて同調した。


「わたくし達が、子供や孫たちにしてさしあげられることなんて、ございませんわ。財産や会社を残したところで、負担でしかないかもしれませんもの。……見守り、心配することだけ……ですわ。」


「……見守り……心配すること……ですか……。」



要人には、実のところ、よくわからなかった。


家族との関わりが薄かった分、子供達に期待することも、心配することも、ほとんどなかった。


ただ、自分の想いとは違う方向へ進む義人には、心血注いだ会社を譲りたくない。

それだけは確乎たる想いだ。



「遺産はともかく、会社ですね……。どうしたものか……。」

要人はため息をついた。



領子は、少し逡巡してから、口を開いた。

「……竹原の会社とは規模が違いますけど……我が家の場合は、主人は、仕事に支障を来たす前に、社員もお得意先も、お友達の会社に託して、会社をたたむつもりのようです。……義人さんは、たぶん、竹原以外の誰もが、優秀と認める素晴らしい後継者だと思うのですが……そんなに気に入らないのなら、あなたも、ご自分の手で、会社をどこかに売却されるというのも一つの方法かもしれませんね。」


要人の目が剣呑に光った。

「……あなたが、それをおっしゃいますか……。」



何のために、会社を大きくしてきたか。

偏に、領子にふさわしい存在になりたいがためだった。



領子はたじろいで、小さく

「ごめんなさい。」

と、つぶやいた。




要人はしばらくしてから、決意表明のように領子に言った。


「私は、縮小も売却もいたしません。」


意地でも、貫き通す。


そんな頑なさを感じて、領子はこっそりため息をついた。



……ほんとうに……頑固なんだから……。


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要人の思惑はさておき……佐那子の病気を発端に、竹原家に変化が生じた。

余命を強く意識し始めた佐那子は、桜子に会いたいと願い始めていた。


しかし桜子は、義人の高校時代の恋人が、義人と別れた後で、義人に内緒で産んだ娘だ。

義人ではない、継父に対する遠慮もある。


なにより、義人の妻である希和子や、娘のまいらの気持ちを考えると、おいそれと桜子に会いたいと口に出すことはできない。



悶々としている佐那子の気持ちを汲んで、義人は希和子の友人の結婚式を利用して、まずは父の要人と桜子を公的に対面させた。
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