いつも、雨
「え?要人さんが入れてくれたの?どうしたの!?……わぁ……いい香り~。」

「神戸でいただいた。……桜子を育てて下さった古城さんのお店のコーヒーだ。焙煎したのは、婿殿のお兄さんだがな。」

「光くんね。懐かしい……。とても綺麗な男の子だったわ。……カフェで働いてらっしゃるの?」


佐那子は遠い目をして、昔々の園遊会で1度だけ会った光のことを思い出していた。


「ああ。ゆくゆくは店を継ぐんじゃないかな。……カフェじゃなく、純喫茶だそうだ。……冷めないうちに、飲みなさい。」


そう言って、要人もブラックで口を付けた。


……旨い。

確かに、間違いなく、うまい。


透明感というか、すっきりクリアーで、美味しいのに味わいもある。

香りの甘さもいい。


店で飲んだコーヒーのほうが、イロイロ濃い気がするが……これが水の差なのだろうか。



「美味しい。こんなのはじめて。昔、要人さんが連れてくれたお店もまろやかで美味しかったけど、これはまた、違うのね。淡麗?薄いわけじゃないのに。不思議。」


佐那子はうれしそうだ。


長い間……本当に長い間、会いたかった孫に、3日後、ようやく逢えるのだ。


万が一にも体調を崩さないよう、自己管理している姿がほほえましくもあり、痛ましくもあった。


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翌日のお昼、桜子が出勤してくるより先に、要人のもとに台紙に納まった写真が届いた。

つい数時間前に撮影された、桜子とその夫の薫のツーショット写真だ。


意志の強そうなイケメンの男はおいといて……、桜色の着物を着た桜子の美しいこと、かわいいこと……。


なるほど。

この男の横だと、こんなにも柔らかい顔をするのか。

とろけそうじゃないか。


まだ要人が見たことのない桜子の表情だ。


……いや……。

息子の義人に対しては、瞳を潤ませていたか……。


……。


おもしろくないことを思い出してしまい、要人は憮然とした。


そりゃ、今年はとうとう70才になるじいさんに、血縁上は祖父だからと言って、いきなり、懐け!と強要するのは無理があることはわかる。


しかし、義人だってもうすぐ42才になる中年の男だ。


なのに桜子のあの瞳は……まるで恋をしているかのように、熱く揺れていた……。


……くそっ。

そもそも、義人が不甲斐なさすぎて、夏子さんに逃げられたくせに、どうして桜子はあんな男を慕うんだ。
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