いつも、雨
……もはや、ただの嫉妬だということに気づきながらも、要人は不機嫌になってしまった。



午後になり、桜子がやってきても、予定通り、実家の水でコーヒーを入れて振る舞うことすら忘れてしまった。

どこまでも礼儀正しいというか、他人行儀な桜子に、どう接すればいいのか……。

威圧しないよう、優しく、心を砕いているのだが……やはり、桜子の心が見えない……。



「会社以外で話せば、私にも敬語を崩してくれるんだろうか……。」

ついついそんなことをつぶやいてしまって、後悔した。



神戸の水は秘書に託したが、3時の休憩時に、桜子はコーヒーより紅茶を所望したらしく、……結局、目的を果たすことができなかった……。





むしゃくしゃした気持ちは、領子(えりこ)の顔を見れば、すっと凪いだ。

愛しさに満たされた濃厚な時間をすごした後、ピロートークでことの顛末を語った。


領子は、気遣わしげに諭した。

「ねえ。気づいてらっしゃらないの?竹原。……あなた、ずいぶん僻みっぽくなってらっしゃってよ。お孫さんの桜子さんに対する愛情より、義人さんに対する嫉妬のほうが勝ってしまって……。それでは義人さんだけじゃなくて、ご家族のみなさんがおつらいわよ?」


慈愛に満ちた瞳が、要人の凝り固まった心をほぐす。



要人は息をついた。

「……そうですね。認めたくはないですが、これも、老化現象なのでしょうね……。」

「仕方ないわ。わたくしたち、もう、そういう歳ですもの。……そろそろ肩の荷をおろして、楽になってもいいのかもしれませんね……。」


領子の言わんとすることは、よくよくわかっている。


会社を譲って、名誉職に引いたほうがいい。

しかし、義人には譲りたくない。


……我ながら、ずいぶんとこじらせたものだな……。



要人のため息がとても深刻で……領子もつられて息をついた。



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その週末。

恒例の園遊会で、要人はようやく桜子の夫となった薫と会うことができた。


つい先日会った純喫茶マチネにいる光とは……顔の造作自体はどちらも整っているし似てなくはないのだが、受ける印象が全く違った。
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