いつも、雨
4月5日。

天花寺夫妻と領子は、京都の恭風の大学の入学宣誓式に出席した。

ちょうど、今日のあの邸宅は桜が満開だった。


翌日、東京に帰ってきた領子は、「お土産」と言って、要人に3つの鍵を渡した。

そのうちの2つは、同じリングで繋がっている。

こちらは、家の鍵だろうか?

もう1つは、番号の彫られたプレートがくっついている。


「何?これ。……コインロッカーの鍵というわけでもなさそうやけど……。」

領子はふふっと笑った。

「こっちは、お兄さまから。隣の空き家にホームレスが入り込んで、ボヤを出したんですって。幸い、雨の日だったのですごく煙っただけで鎮火したそうですけど。どうやら、天花寺のお屋敷のお庭にも入り込んでらした形跡があるらしく……念の為に玄関と御勝手口の鍵を交換したそうです。合鍵を、お父さまとお兄ちゃんにどうぞ、ですって。」


「……へえ。ありがとうございます。……でも、竹原、とお呼びくださいよ。領子さま。」

要人が笑顔でそう言うと、領子は少しむくれてしまった。


呼べない。

呼べるわけがない。

小さい頃から大好きな6つも年上の男性を、苗字で呼び捨てなんて、そんな失礼なこと……無理。

……名前を呼び捨てなら……できるかも……キャッ!


乙女らしい妄想に、多少ジタバタしてから、領子は慌ててコホンと咳払いをして見せた。

そして、笑顔を作って、もう1つの鍵を指さした。

「そっちは、トランクルームの鍵だそうです。……鴨五郎さんから、渡すように言われました。」


「領子さま……鴨五郎のおっちゃんに、わざわざ会いに行ったの?」

驚いてそう尋ねると、領子ははにかみながらうなずいた。

「はい。せっかく久しぶりに京都に参りましたので、ご挨拶を……と思って。」

「独りで!?……あ、恭風さまと一緒だったら、まあ……。」

「いえ、お兄さまはお忙しそうでしたので、私独りで。……鴨五郎さんに叱られてしまいました。独りで来たらあかんそうです。」

「当たり前やわ……。」


要人は呻いた。
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