いつも、雨
挨拶というか、……言葉は、交わしていない。

ただ、母親の十文字さやかの斜め後ろにいた彼にも、アルカイックスマイルのまま会釈はした。


……ずいぶん背が高くなったと思ったら……もう中学2年生になったのか……。

普通なら反抗期だろうに、意外と彼は達観しているらしい……と、さやかから聞かされていたが……なるほど……意思を押し殺したクールな瞳が印象的だったな。


さすがに会えば情が湧く。


しかし原は処理しきれない感情は胸の中におさめて……要人が興味を示しそうな、とっておきのネタをぶつけた。


「そう言えば、今年も最後に舞ってくださいます芳澤の菊乃お嬢さまですが、系列の大学には行かないと仰り始めたそうですよ。」


心配して尋ねた問いに答えず、まったくとんちんかんなことを言い出した秘書に、要人は鼻白んだ。


「……なんの話だ。あそこのお嬢さんは、天花寺(てんげいじ)の恭満(やすみつ)さまと同い年だから、今年、高校3年生だったな……。」


息子の義人の親友の娘……という、要人には直接関わりのない人物だ。

その程度の情報しか持っていない。


原は淡々と報告した。

「まだ御父上であられるお家元は反対してらっしゃるようですが、菊乃お嬢さまは神戸の大学に行きたいそうです。長年おつきあいされている恋人と少しでも一緒にいたいといういじらしい理由が、お家元にはおもしろくないのでしょうね。」

「長年って……神戸の男と?」


要人の眉が動いたのを見て、原はうっすらと微笑をたずさえて言った。


「はい。中学1年生の頃からのおつきあいだそうです。お相手は、社長もよくご存じのおかたですよ。いや、もう御姻戚と言っていいかもしれませんね。……お相手は、桜子さんの御主人様のお兄さまの、小門光さんです。」

「なに?本当か!」

さすがに驚いた。


つい数日前に会った、あの見目麗しいギャルソンが……日本舞踊の家元のお嬢さんと……。


……何と言うことだ……まったく思いつきもしない組み合わせではあるが、言われてみれば、ものすごく似つかわしいじゃないか。

しっくりくる、という言葉がぴったりだ。



「はい。本当です。昨年、光さんが大学を卒業されてからも、菊乃お嬢さまにお会いするために、わざわざ京都の建築関係の専門学校に来られていたそうですが、1年であっさり宅建に合格されたそうです。」
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