いつも、雨
……薫と桜子の住むマンションは、会社の真横というか真ん前というか……隣接しているし、薫が通う大学も充分徒歩圏内なので、洛外の竹原家にわざわざ行くのはいささか大変なのだが……逆に言えば、そこまでお膳立てしないと、訪問する機会はほとんどないだろう。


回りくどいようだが、桜子は、道筋をつけてくれた由未と薫に、そしてとっくに家族として歓待してくれている佐那子やまいらに、感謝でいっぱいになって落涙した。



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園内がすっかり片づいたころ、要人は家に戻ろうとして、桜の下に佇んでいる恭匡を見つけた。

独りで、まだ酒を飲んでいるようだ。


何となく声をかけづらい雰囲気ではあったが、恭匡のほうが要人に気づいて顔を上げた。


「冷えてきましたね。続きは、家の中で、いかがですか?」

要人がそう声をかけると、恭匡は微笑んだ。

「充分いただきましたよ。……あんまり飲むと、由未ちゃんに呆れられちゃうので、これで。」

「ほう?あれは、そんなに口うるさい嫁になりましたかな?」


おどけてそう尋ねたが、恭匡はやるせなさそうに息をつき、ちいさくかぶりを振った。


「まさか。……いつまでも口うるさいのは、僕のほうです。……ほんとうに……小さな人間だと、反省ばかりです。……昔っから、変な意地を張って……つまらないプライドでやせ我慢して……馬鹿でした……。」


恭匡らしくない感傷的な泣き言に、要人は驚いた。


酔ってらっしゃるから、というわけでもなさそうだ。


「私は、恭匡さまの自尊心は、尊敬に値すると思っていますが……。」



要人の言葉を、恭匡は鼻で笑った。

そして、すぐに真顔になって、小さく息をついた。


「……僕のちっぽけな自尊心なんか、何の役にも立ちませんよ。……もっと大らかでいたいのに……僕の知らない過去の由未ちゃんの話を聞く度に、情けないほどに動揺し、嫉妬してしまう。……こんなことなら、最初から……いや、せめて恋心を自覚した時に、ちゃんと気持ちを伝えて、もっと早くからおつきあいすべきだった。……いまさら、過去の由未ちゃんに対する独占欲で苦しいんです。」


……さすがに……唖然とした。


偏執狂すぎるだろう。
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