いつも、雨
大学の講義が始まったその日から、まいらの家庭教師も始めることにした。

ついでに、車の免許を取得するために教習所も申し込んだ。

合間に、お茶のお稽古、仕舞いと謡いのお稽古……いずれも楽しんで取り組んでいるとはいえ、もはや桜子よりも忙しい。





「真面目に時間を守らなくてもいいのよ?あんまり無理しては続かなくなるわ。」

時に汗だくで走っても時間厳守でやってくる薫を佐那子が気遣った。

タクシーチケットも渡しているのに、一枚も使ってないようだ。


でも薫は、あっけらかんと言った。

「バイト料多すぎるぐらいもろとーのに、ええ加減なことできませんわ。……それに、まいら、飲み込み早いし、頭いいし、やりがいあるし。……そやのに、なんで成績悪いんやろ。」


佐那子は困ったように微笑んだ。


孫の成績は、確かによくない。


……というより、何かが、おかしい。

理解力も記憶力も高いのだが……どこか、ぼーっとしているというか……たぶん授業をよく聞いてないのだろう。

しかも本人が、授業にも、テストにも、成績にも無頓着なので、わからないことをわからないままスルーしてきて、今があるようだ。




薫は、根気よく、まいらから抜けている基礎知識や方程式を教え込み、足りない箇所を補完し続けた。

そのうち、勉強以外の話も弾むようになって、薫はまいらとすっかり打ち解けた。








「……ヨセフを知る一族、ってやつみたいやな。まいらは。」

薫の表現に、佐那子はうなずき、まいらと桜子は首を傾げた。


ゴールデンウイークの始まった日の午後、四人はお庭でピクニックを楽しんだ。


「ヨセフって?ヤコブの子のヨセフ?ナザレのヨセフ?」

とりあえず、桜子は、知識として知っているヨセフを挙げてみた。

「あら。さっちゃん。『赤毛のアン』は、読まなかった?」

佐那子が尋ねた。


「えーと、子供向けのは読みました。でも続編までは読んでないので……ヨセフ?……は、覚えてないです。」

「私も私も。……でも、ヨセフってなに?知らんのに、知る一族なん?」


まいらのツッコミに、佐那子も薫も笑った。


「空想癖って言っちゃうと、元も子もないわねえ。」


佐那子の説明を、薫が引き受けた。


「味気ない現実を、美しく楽しく色付けるのが上手な人達……かな。」



綺麗に表現した薫に、思わず桜子が拍手した。

「薫くん、詩人みたい。すごーい。」
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