いつも、雨
まさか自分の名前まで呼ばれると思わず、薫は驚いて勢いよく佐那子を見た。

首振り人形のような薫の反応に、佐那子は声を出して笑った。


そして、薫の目を見て、うなずいて見せた。


……幼い日……確かに、あの日も、この人は……今と同じように、桜子のことも、俺のことも、愛しげに見つめていた。


たまらない気持ちになって、薫の目も潤んだ。


まいらは2人の涙に驚いて、キョロキョロしていたが

「おばあちゃん、まだ死なないよ?ね?ね?ね?」

と、言ってるうちに、不安になってきたらしい。



佐那子は、孫の手を取った。

「わからないわ。でも、死んでも、いつも、見守ってるつもり。」


不安は、解消できなかった。


まいらは目を大きく見開いて……こみ上げてくる涙を見せないように佐那子の背中に回ってしがみついた。


「……あらあらあら。」


いくつになっても子供のときのまま、素直に甘えるまいらがかわいくてかわいくて、佐那子の胸が、また幸せに満たされた。







それからも、なるべく桜子と薫は、竹原家を訪れ、佐那子と一緒に過ごした。







噂の芳澤菊乃の舞台には、義人に連れて行ってもらった。

義人は菊乃の父である家元の親友で、高校生の頃から欠かさず行っているので、勝手知ったる、まるでスタッフのように桜子と薫をもてなした。

敢えて、光には何も知らせないまま、少し離れた後方の席に並んで座り、舞台と光の両方を観察した。



終演後、桜子がつぶやいた。

「……光くん……泣いてたね……。」


光は、ずっと退屈そうにあくびしたり、うとうとゆらゆらしていたくせに、菊乃の出番になるとオペラグラスを取り出した。

そして、なんども目元を拭う動きをしていた。


「……ああ。菊乃もやけど、咲弥と、家元の時も泣いとった。……ガチやな、あれは。」


薫が同調すると、気恥ずかしそうに義人が頭をかいた。

「まあ、最後は俺も泣けたけどな。」

「え!?」

「マジか!」


2人から驚かれて、義人は頷いた。

「マジマジ。……胸に迫ってくるゆーか……まあ、毎年やけど。……それはいいとして、どうする?今、光くん、追いかけて、声掛ける?楽屋に向かわはったで。」
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