いつも、雨
「楽屋……までは、さすがにちょっと……。」


困惑する桜子に、義人はほほえみかけた。


「ほな、パーティー会場行こうか。かわいそうに、光くん、毎年、手持ち無沙汰で、壁の花にすらなるつもりないみたいで、廊下のソファで座って待ってはるし。」


「……毎年……何しとーねん、光……アホやろ……。」

薫は憮然とした。


自分はともかく、自分より歳下の菊乃が兄の光をぞんざいに扱ってるのは、許せないらしい。


慌てて、義人がフォローの説明を加えた。

「菊乃んにとっては、何よりのご褒美なんやって。光くんが。でも、立場上、後援者やお客様へのご挨拶もおろそかにできひんやろ?せやし、光くんが待っててくれはるねんて。微笑ましいもんやで。」

「きくのん……かわいい……」

桜子は、舞台で艶やかな太夫を待っていた菊乃に、好印象を抱いているようだ。

あの光が惚れたなら、イイ子に違いない……という、妙な確信もあった。


「……口も態度も悪いけどな……」

「いや。外面(そとづら)はいいんやで、あれで。ちゃんとしつけられたお嬢様やから。」


ふたたびそう説明してから、義人は小さく息をついた。


……薫くん、こーゆーところは、空気の読める父親の小門頼之じゃなくって、敢えて天真爛漫風にずけずけ言っちゃうあおいちゃんに似てるよな……。

これから先、社長と意見が衝突したりしたら……俺、フォロー仕切れるんだろうか……。


……まあ、俺だけじゃないか。

さっちゃんもいるし、大丈夫大丈夫。



桜子と目があった。


ほんのり頬を染めた桜子がかわいくて……義人は、イロイロ自嘲した。


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パーティー会場のホテルへは義人の車で移動した。


まだ少し時間があるので……と、レストランに入った。


「……パーティーて、料理あるんちゃうの?ビュッフェちゃうん?」

コーヒーのみならずサンドイッチも注文した義人に、薫が尋ねた。

義人は笑顔で、うなずいた。

「あるある。このホテルは美味しいの出してくれるから、遠慮せんと、何でも、好きなだけ食べといで。……残念ながら、俺は、挨拶回らなあかんから、会場では食べてられへんねんわ。せやし、今、腹ごしらえさせてな。」


……オトナだなあ……かっこいいなあ……と、桜子は義人に見とれた。


薫は、義人に見えないよう、テーブルの下で桜子の手を握った。

慌てて桜子が表情を引き締めた。

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