いつも、雨
……義人が桜子を見つめる瞳も、桜子が義人に向ける瞳も、当たり前の親子のものではない。

そんなこと、薫は重々承知している。

しかし、嫌悪感も敗北感もない。

仕方ない、とすら感じている。

義人は男の薫から見ても頼もしいカッコイイ紳士だし、桜子の愛らしさは言うまでもない。

惹かれ合うのは自然なことだろう。

実の親子であっても、桜子が生まれてこのかた逢ったこともなかった2人だ。

普通の親子になるには、時間がかかるだろう。


……大丈夫。

間違いは、起こさせない。

桜子は、俺のものだ。

俺の存在を忘れるな。


桜子の夫は、俺だ。



言葉にはしない想いを込めて、薫は桜子の手をくすぐるように撫で続けた。

注文したドリンクが運ばれてくるまでの、わずかな時間の2人の秘め事だった。







開場を知らせるベルボーイがページングボードの鈴を鳴らしながらやってきた。

「さて、行こうか。」

義人に促され、桜子と薫も席を立ち、出陣した。


会場は、ホテルで一番大きなバンケットだった。

いかにもな名士たちが集うなか、ともすれば自分が場違いに思えて萎縮しそうな状況なのに、義人の導きで、桜子は安心して歩めた。


が、いきなり本丸を攻める義人には、さすがに驚いた。

「家元!紹介するわ!この子が、桜子。俺の娘。こちらが、婿殿。桜子の旦那さん。菊乃んの、彼氏、小門光くんの弟や。」


実に端的に、ややこしい人間関係を説明した義人に、家元と呼ばれた親友の芳澤彩乃は怪訝そうな目を向けた。


「はあ?何ゆーてる?娘って?……まいらじゃなくて?このお嬢さんが?……て、おい、いくつや。……で?……光くんの、弟?……て、いくつや。」


何も聞いてなかったらしい家元に、桜子は深々と頭を下げた。


「はじめまして。小門桜子と申します。24歳です。……いつも義人さんと、光くんがお世話になっております。今日のお舞台拝見いたしました。とても素敵でした。ありがとうございました。」


桜子の通り一遍な挨拶のあと、薫もまた頭を下げた。


「小門薫です。今年19になります。俺は覚えてます。昔、竹原家の園遊会で、お家元にもお会いしたことあります。今年は来てはりませんでしたね。あ、でも、咲弥と菊乃とは、話しました。光のこと、なんか、困ったことあったら、ゆーてください。」



彩乃は、マジマジと桜子と薫を見て、それから途方に暮れたように義人を見た。

「何なん?この状況。」
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