いつも、雨
「初対面って……」

記憶にないんだけど、私はいったいいつから、菊乃さんに恨みをかってきたのかしら。



絶句する桜子の手を握り、背中をさすりながら、薫が言った。

「あいつ、外面(そとづら)はええけど、中身はワガママなクソガキやな。……わかったわ。ほんで、光は、菊乃のことを、ずっと内緒にしとってんな。てか、光、菊乃を甘やかしすぎやろ。ちゃんとしつけろや。」

「……返す言葉もありません。面目ない。……ごめん。」

5つ歳下の実の弟に叱られて、光はしょんぼりと謝った。


でもそんな光をみて、桜子は息をついた。

「私も……わかっちゃった……。敢えて、菊乃さんを甘やかしてるんでしょ……光くん。」


ワガママに育てて、自分以外の男ではとてもつきあいきれないように。

そんな束縛の方法もあるのねえ……。



「ろくな大人にならんぞ。」

薫にそう言われ、光はますます身を縮めた。


「……光くんが菊乃さんを可愛がるのはわかるけど……私がいつまでも敵意向けられてるのは、ちょっと……つらいな……。」


桜子がしょんぼりそう言うと、薫ももっともだとうなづいた。


「だいたい、光が菊乃を放置するんが悪い。光がずっとそばにいてワガママの面倒みるならかまへんけど、中途半端やねん。どうするねん。菊乃、神戸の大学受験するゆーとんで。」

「あ、うん。神戸に来るみたい。部屋はマスターにもう頼んであるから。そのつもり。……てか、薫、もう少し声、落として?一応、ほら、菊乃さんのお家の催しだから。お客さまに、あまりお聞かせしたくないから。」



何気にキョロキョロすると、やはり会場から出てきたらしい臈長けた雰囲気の着物の女性と目が合った。


たまたま隣の会場で催されていた婦人会の集まりに参加していた、領子(えりこ)だった。


聞くともなく、3人の会話が聞こえてきたのだが、何となく状況は理解できてしまったようだ。


……というか、領子は一目で気づいてしまった。

桜子が、要人の孫だということに。


何度も写真を見せられたが、実物のほうが愛らしく見えた。

光や薫と一緒にいるからだろう。



あまり凝視しては不躾かもしれない……と、領子は軽い会釈だけ残して、その場を立ち去ろうとした。



しかし、背後からよく知る声に呼び止められた。

「おばさまじゃありませんか。奇遇ですね。」

< 537 / 666 >

この作品をシェア

pagetop