いつも、雨
……愛する要人にとてもよく似た低い艶のある声……。


領子は、仕方なく、表情を取り繕って振り返った。

「ごきげんよう。義人さん。」


義人は、両手に持ったウーロン茶のグラス3つを、桜子たちに手渡しながら、さらりと領子に紹介した。

「恭匡さんから、もうお聞き及びでしょうが、彼女が桜子です。僕の娘です。よろしくお願いします。……桜子。こちら、橘領子さま。恭匡さんの叔母さまだから。挨拶して。」


ま……あ……。

まさか、義人から桜子を紹介されるとは思っていなかった領子は、心底驚いた。


もちろん、恭匡ではなく、要人から聞いていることをわかっている上で、義人は恭匡の名前を出した。

いつも無表情な領子が目を見開いているのを、義人は楽しげに見ていた。



桜子は、既に何度も逢っている恭匡の叔母……ということは、竹原家にとって主筋に当たる天花寺家ゆかりのひと……と、察して、慌ててグラスをテーブルに置いて立ち上がると、深々と頭を下げた。

「はじめまして。小門桜子です。どうかよろしくお願いいたします。」


「……そうですか。あなたが、桜子さんですか。……もう、慣れましたか?」

桜子の素直な礼儀正しさが、領子を落ち着かせた。

と同時に、愛する要人の孫……と思うと、やはり、好意的に感じるようだ。


「はい。みなさんがとても優しくて、まだ戸惑いはありますが、甘えさせていただいています。……あの、おばさまの甥御さんの、恭匡さんにもお抹茶をたてていただいて……私、あんなに美味しいお抹茶はじめてで驚きました。同じお茶でやってみても、同じ味にならなくて。今度またお茶をたてていただくお約束をしていただきました。」

桜子は笑顔でそう言った。


なるほど、上品な花のような笑顔に、領子の頬も緩んだ。


「そうでしたか。恭匡さんは、多才でいらっしゃるから。……そんなに美味しいのでしたら、わたくしも、いただいてみたいわ。」


……考えてみれば、恭匡からそんな歓待を受けた記憶がない……。


多少笑顔に翳りを感じて、薫が口を出した。

「はじめまして。桜子の夫の小門薫です。……俺も、恭匡さんのお抹茶飲んでみたいのと、お点前拝見したいんやけど、まだ機会がなかったんです。今度ゲリラお茶会しましょう!おばさまも誘いますから、来てください!」



ゲリラ……?

何を仰ってるの……?


頭の中で、迷彩服のむさ苦しい戦士が狭い茶室にどやどや入ってくるのを想像して、領子は首を傾げた。
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