いつも、雨
「今日は、お茶会やなくてお茶のお稽古ねんわ。せやし頭数増やし過ぎても思て誘わんかったけど、ほな、お茶会開いてもいいな。そん時は、百合子も手伝ってな。」


「……はい!」

気をつけているつもりだったのに、つい、うれしくて、声がうわずってしまった。


意識するなというほうが、無理だ。

初恋の、長い年月、ずーっとずーっとずーっと、本当に大好きだった義人と、こんな風に自然に関わることができるようになるなんて……歳を重ねるのも無駄じゃない。



百合子のうれしそうな顔に、義人も穏やかに微笑んだ。




「お待たせいたしました。義人さん。ごきげんよう。本当にお迎えに来てくださったのねえ。ありがとう。では、参りましょうか。」

奥から、地味めの訪問着を着こなした領子が出てきた。


「お母さま、お懐紙、持たれました?キタさんが心配されてましたわ。」

「それが、りゅうさん紙しか見つけられなくて……キタさんがいないと、どこに何があるのか、やっぱりわからないものね……。」

「やっぱり。では、わたくしのをお持ちください。」



母娘の会話から、忠実なお手伝いさんのキタさんが留守していることを義人は知った。






「キタさん、お休みですか?」

車に乗り込んでから、義人は領子に尋ねてみた。



領子は、ほうっとため息をついて、それからおもむろに言った。

「……ええ。このところ、少し肝臓の数値がよくないとかで、療養していただいてますの。……どんなに健康でも、寄る年波には勝てませんものね。」


もともと、領子より15も年上のねえやだ。

本当なら、とっくに退職して、悠々自適で暮らしているはずの年齢なのに、キタさんは最期まで領子のそばにいたいと言った。


領子のみならず、一夫や百合子夫婦も、キタさんは家族の一員と認識しているので、異論はない。

……キタさん自身にも娘がいたのだが……離婚のとき夫側に引き取られたためずっと疎遠だったまま、数年前に亡くなったという。



「そうですか。では、別のかたがいらしてるのですか?」

領子も百合子も家事をするとは思えず、義人は当たり前のようにそう尋ねた。



しかし領子は首を横に振った。
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