いつも、雨
……でも、たしか、亡くなられた奥様はまだお若いかただったような……。


「いえ、わたくしのことは、ここで、もう、大丈夫ですわ。家のものに迎えに来てもらってもいいし、タクシーでも帰れますから。……どうか、早く行って差し上げてくださいまし。」


領子の言葉に、義人は苦笑を見せた。

「いえ、たぶん、僕が駆け付けたところで、何の役にも立ちませんから。……それより、おばさまをこんなところで下ろすわけにはいきませんよ。父に知れたら、勘当されます。」


……いや、おそらく、あの父のこと……この事態だ……とっくに動いているだろう。



義人は、父の要人ではなく、秘書の原に電話をかけた。



『義人さん。坂巻の若奥様のことはもうお聞き及びですね?今、どちらにいらっしゃいますか?』


……さすが、話が早いな。

GPSでわかるだろうに、敢えて確認する原につきあって、義人は現在地を答え、ついでに付け加えた。


「今からでしたら、どれぐらいでこちらに、領子おばさまのお迎えのお車を回してもらえますか?」

『……そうですね、たまたま、そちらへ向かう車がございますので、……10分かからず、お迎えに上がれるはずです。』


……たまたま、ね。


笑いをかみ殺し、義人は返事をした。

「わかりました。ではお待ちしています。……10分とは言え、おばさまを独りでお待たせするわけにもいきませんしね。ましてやタクシーなんて。ねえ。」

『……わかりました。お伝えいたします。……では。』



電話を切った義人は、柔らかい表情を意識して作ってから、振り向いて、領子に言った。


「すぐに替えの車が参りますので、申し訳ありませんが、今日はそちらでご帰宅ください。」

「わかりました。お気遣い、ありがとうございます。義人さん。わたくしはもう大丈夫ですから……どうか、一刻も早く行ってさしあげて?奥さま……希和子さん、お心細いでしょう。……本当に、もう、大丈夫ですから。では、これで。」


領子はそう言って、車を降りようとした。


急いで義人が運転席から飛び出して、外側から領子のためにドアを開けた。


「ありがとうございます。」


ついでに手を差し伸べて、領子が車を降りるのを支えた。

領子は気恥ずかしそうに微笑み、……それから、うつむいた。




やはり、かわいらしい女性なんだな。

改めて義人は領子の魅力を垣間見た。
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