いつも、雨
……しかし、本当に道端に、領子を残して行くわけにはいかない。

困ったな……。



車に戻るわけにもいかず、義人は首を伸ばして、キョロキョロあたりを見渡した。


程なく、見知った黒塗りの車がやってきた。

……早っ。

まだ3分もたってないぞ。

呆れる程に用意周到だな。



車は、珍しく、後部座席が外から見えないようにカーテンをしていた。

あからさますぎるような気もするが、中に父の要人がいることを確信して、義人は少し気が軽くなった。



運転席から、見かけない男が降りてきた。

……いや、義人にとっては見かけない男だが、領子とは顔馴染みのようだ。


「ごきげんよう。」

簡潔な挨拶の言葉だが、安心感が込められているのを義人は感じた。


「お待たせいたしました。橘さま。遅くなって申し訳ありません。お迎えにあがりました。……義人さん、橘さまは責任を持ってお送りいたしますので、どうぞ、お急ぎください。お嬢さまも、向かってらっしゃいますので。どうぞ。」


早く行け、と、厄介払いをされているようだ。


……確かに、後部座席に父の要人が座っているなら……義人がいては、ドアを開けづらいだろう。


義人は、肩をすくめて見せてから、領子に恭しく一礼した。


「ありがとう。義人さん。また、お誘いくださいね。」



領子に力強く頷いて見せてから、義人は黒いままの後部座席にも一礼して、自分の車に戻った。


……お嬢様って、さっちゃんはとっくに着いてるだろうから……まいらのことか……。

最愛の妻を亡くした大好きな孝義に、娘が失礼な振る舞いをしないといいのだが……。


……って、うまく寄り添って、結果的に母親と同い年の男との恋が成就しても、それはそれで困るというか……父親としては非常に複雑なのだが……。


まあ……やきもきしても、こればかりはどうしようもないか。


花は紅、柳は緑
天地自然のあるがまま


……なるようになるだろ。



無理やり引き裂いたって、人目を忍んで何十年も繋がり続けるご縁もあるわけで……。



ミラーにうつった黒い車は、Uターンするわけでなく、いかにも速度を落として走行し、そのうち左折して見えなくなった。


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「……せっかくの機会でしたのに、残念でしたね。」

車に乗り込んだ領子に、要人が言った。
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