いつも、雨
葬儀は、キタさんの亡骸を家に連れ帰っておこなった。

キタさんは、ご近所づきあいにも心を砕いてくれていたので、家族葬というわけにはいかない。

あいにくの雨にもかかわらず、町内のかたがたや近しい親戚の弔問が途絶えなかった。


……当然のように、要人もやって来た。


「社長。お忙しいやろに、すんません。ありがとうございます。……もう、寺の奥さんの葬儀のほうは、落ち着かはりましたか?」


挨拶にやってきた一夫に問われて、要人は恭しく頷いた。


「はい。とりあえずの葬儀は滞りなく終わりました。が、まだ、何度も法要があるようです。……喪が明けるまで、続くみたいですよ。寺関係じゃない我々は、もう行かなくていいみたいですが。嫁は、まだ当分、日参するようです。」

「……はあ……。大変なもんですな。……うちのもんが、心配してましたが、奥さん、体調崩されてませんか?」



要人の表情が曇った。


佐那子は、身体のことを考えて、本葬の儀式にのみ参列した。


無理はさせなかった……はずなのだが……やはり、人の多い場所に出るべきではなかったのだろうか……。

翌日から熱を出してしまった。


……まだ5月なのに、急激に夏のように気温が上昇したことも、堪えたかもしれない。


そのうち、息苦しさを訴え、急遽、入院した。


家族は肺癌を心配したが、そこまでには至らず……肺炎だと言われた。

ただし、胸水が溜まり、なかなか重篤な状況らしい。

たかが肺炎、とはとても言えない。

高齢者にとって、肺炎は死へ直結する恐ろしい病だ。




要人にしては珍しく答えづらそうなのを汲み取り、一夫は話題を変えた。


「キタさん、最期まで、社長のこと、話してました。妻のワガママが過ぎると社長に呆れられる、と懸念してましたわ。」

「……。」


せっかく話題を変えてくれても、やはり、反応に困ってしまった。



要人は黙って、視線を彷徨わせた。



領子は、棺のすぐそばに座り込んで、さめざめと泣き続けているようだ。



「ずっと、泣いてるんです。見てられませんわ。やつれてしもて。……社長……声を、掛けてやってください。」

一夫はそう言い置いて、新たに到着した別の弔問客へと挨拶に向かった。



……声をかけろ、と言われても……なあ……。


そこそこ大きな広間とは言え、参列者みんなに聞こえるだろうところで、何も言えるわけがかい。
< 546 / 666 >

この作品をシェア

pagetop