いつも、雨
「わかった。すぐ行く。……まいらは?もうすぐ、家だが、まいらはそこにいるのか?家にいるなら、連れてくが?桜子はどうした?まだ会社か?」

「まいらは、まだ帰宅してないと思います。学校は出てるでしょうから、病院へ来るよう電話します。さっちゃんにもこれから連絡します。希和子にも。……由未は、斎場へ行ってませんよね?」


……真っ先に自分に連絡してきたことに気づき、要人は理不尽な苛立ちを感じた。


早くしろ!と、怒鳴りたいのを我慢して、

「行ってない。しかし、一度帰らないと、喪服で病院に駆けつけるわけにもいくまい。とにかく早く連絡してやれ。」

とだけ言って、電話を切った。



「……社長。」

秘書の原が、声をかけた。



要人は、ふーっと息をついてから、冷静に言った。

「佐那子が、危篤だそうだ。着替えて、すぐ病院に行く。」


「……僭越ですが、普通のスーツでしたら車に備えてますが。」



そういえば、そうだった。


そんなことも忘れてるなんて……、どうやら、俺はかなり気が動転しているらしい。



「わかった。では、病院へやってくれ。」


車はいつもよりスピードを出して走った。






病院に到着すると、すぐさま、喪服から平服に着替えた。

普段なら難なくできるボタンをかけること、ネクタイを締めること……そんな単純な動作に手が震えた。


病院に入り、エレベーターに乗り込むと、息をきらした桜子がいた。

「……おじいさま……。」

どこから走って来たのだろうか。


肩で息をする孫娘に、要人の目が潤んだ。

「うん。よく来てくれたね。……そうだ。薫くんにも来てもらいなさい。」


佐那子が喜ぶだろう……。

……意識があれば……の話だが……。



桜子は、こくこくと何度も頷いて、スマホを握り締めた。







病室には、義人だけでなく、希和子も既に到着していた。

佐那子の姿は、ベッドごとなかった。


「ここで、待つように言われました。……家族が揃ったら、お母さんに会わせてもらえるようです。」

義人はそう言って、顔を歪めた。


泣かないように、自制していた。



会わせてもらえる……か。

なるほど、それが最期というわけだな。



……つまり……それまでは、呼吸と心拍を無理やり止めないということか。
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