いつも、雨
4月8日。

領子(えりこ)は中学生になった。


明治時代に華族のお姫さまを教育するために開講されたバリバリのお嬢さま学校は、中高一貫教育だ。

現在は皇族のお姫さまは在学されていないので平和なものらしい。


要人(かなと)は、その日、新しい制服に身を包んだ領子とご両親の記念写真を何枚も撮影した。

本当は学校の門前でも撮影してほしかったらしいが、バイトがあるからと断わった。

領子は頬を膨らませていたが、両親……特に奥さまは、何となくホッとしていた。


やはり、領子が必要以上に要人と仲良くすることに神経を尖らせていらっしゃるのは間違いない。

つまらないことで、せっかく得た家庭教師の役割を取り上げられたのでは元も子もない。

要人は、ことさらに節度と距離を保つ姿勢をアピールした。



領子の送り迎えの件も、要人自身が「外聞が悪いのでは」と苦言を呈した。

イケメン大学生と美人の中学生が毎日一緒に歩いていたら……まあ、普通は恋人同士と思われるだろう。

兄妹でもそう一緒に行動するものでもないし、ましてや主従なんて、時代錯誤にも程がある。


「……しかし、私が車で毎日、駅まで送迎するのもなあ……。」

別に会社勤めをしているわけでもないのだから、時間的にはいくらでも都合がつくくせに、当主は娘の送迎から逃げた。

そして、しれっと要人に振った。

「そうだ。竹原。車の免許を取りたまえ。うちの車で娘を駅まで送ってやってくれないか?」


「……よろしいのですか?」

要人は、当主ではなく、奥さまの顔色をうかがった。


「そうですね……。運転手としてなら、かまいませんわ。領子さん。くれぐれも助手席に座るなんて、はしたないことはなさらないでくださいね。」

奥さまは条件付きで許可した。


「しかし……どんどん、竹原の負担が増えるな。アルバイトの時間が減るんじゃないか?」

当主は鷹揚な気遣いを見せたつもりらしい。


……そこは、大学に通う時間がなくなることを心配して見せるべきだろうに。

心の中で苦笑しつつも、要人は神妙にうなずいた。

「大丈夫です。お役に立てるように、何とかがんばります。」


天花寺夫妻は、満足そうにうなずいた。
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