いつも、雨
家族は、消毒され、白い服を着せられ、マスクを装着して、佐那子と対面した。

何の言葉もかけられず、ただ順番に、その手に、やせこけた頬に触れ、泣いた。



そうして、人工呼吸器が外されても、佐那子は苦しむ様子もなく、静かに息を引き取った。





家族がみんな泣きじゃくるなか、まいらが、くるりと部屋を、天井を見渡したことに、要人は気づいた。


その目に何が映っているのか……わからないまま、要人も同じように上を向いた。




ふわりと、温かいそよ風が頬を撫でたような、そんな不思議な感覚を覚えた。




まいらが、要人を見た。


ポロリと涙がこぼれた。


たまらず、駆け寄り、まいらを抱きしめた。



まいらは、要人の背中に腕を回して、静かに嗚咽した。



「……おばあちゃん……戻ってきて……行っちゃった……」

「……そうか。」


要人は、まいらの言葉を疑わなかった。



ここ数日、そこにいるのにずっと感じなかった妻の気配を、たった今、やっと感じた気がした。

たぶん、孫の言うとおりなのだろう。


佐那子が最期にもう一度、要人に優しい温もりを与えに来てくれたのだとしか思えなかった。



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葬儀は、佐那子がかつて希望していた通り、自宅で執り行った。


昨今では家族葬ですら葬儀専用のホールや斎場併設の施設で行うことが多いなか……たまたま、この2週間で要人が関わった3件の葬儀は、規模は違えど、どれも自宅での葬儀だった。




「クリーニング屋さんに、気の毒がられました。」

特急便で仕上げてもらった喪服を準備しながら、秘書の原がそう報告した。


「……続き過ぎたな。確かに。」


慣れることではないが、覚悟はできていたのかもしれない。


いや、諦めだろうか。





要人のみならず、家族の誰もが、親類や参列者の前で涙を見せなかった。




佐那子の残した愛情に支えられて、残された家族で支え合って、滞りなく葬儀を終えることができた。




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季節が過ぎ行き、四十九日の法要も終わった。

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