いつも、雨
「……落ち着かれましたか?」
地元名士のみで構成する有名ボランティア団体の定例会の時、遠慮がちに橘一夫が要人にそう尋ねた。
要人はよそ行きの微笑を浮かべて、うなずいて見せた。
「過ぎてみれば、あっという間でした。……淋しくないと言えば嘘になりますが、嫁や孫達が、これまで以上に家に居ついてくれるので、賑やかですよ。」
佐那子は、もういない。
朝も、夜も、夜中も……当たり前のように、世話を焼いてくれた妻がいなくなってしまったことを実感してしまう。
幾度かの入院による不在は経験してきたので、家事は手伝いの人を頼んでいるし、特に不便さを感じることはないのだが……。
「……いや、強がりでした。」
要人は、ぽつりとそうこぼした。
一夫の瞳が潤んだ。
……優しい男だな……。
領子さまは、間違っていなかった……。
一夫くんとの再婚は成功だった。
今さらながら、要人はそう認めている自分に気づいた。
「……奥さんと、キタさんを、同じに語ることはできひんとは思いますけど……うちは、全然あきませんわ。やっぱりキタさんがいいひんと……」
そこまで言って、一夫は鼻をすすって、言葉を継いだ。
「社長。ちょっと、話があるんやけど。これから。……かまへんですか?」
突然の誘いだった。
……珍しいな。
多少面食らいながらも、要人は快くうなずいた。
メンバーとの食事会の後、2人はすぐそばの昔ながらの喫茶店に入った。
閉店時間が近づいているため、店内には他に客がいない。
年季の入った赤い天鵞絨のソファに身を埋め、サイフォンで入れられたコーヒーに口を付けた。
一夫は、コーヒーにたっぷりの砂糖とミルクを入れてから一気に飲み干した。
それから、両手を両膝に置き、背筋を伸ばして、頭を下げた。
「社長。折り入って、お願いがあります。断わらんとってください。お願いします!」
「……。」
肝心な要件がわからないので、即答はできない。
一夫の手が震えているところをみると、仕事の話ではなさそうだ。
……領子さまと別れろ、とでも言われるのかな?
いや、それとも……百合子のことか?
もしかして、百合子が旦那を裏切って、競輪選手の泉とつき合っていることが、一夫くんにもバレたのか?
とりあえず、話を聞いてみなければ返事のしようがない。