いつも、雨
何度もそう繰り返されて、要人は小さく唸ってしまった。


……寝言……。

それは……どうしようもないな……。


……というか、もしかしたら……もしかしなくても?……俺も、領子さまを呼んでいるのだろうか……。

佐那子は、それを、聞いたのだろうか……。



無駄とは知りつつ、亡き妻を慮って、要人は少し落ち込んだ。



しゅんとしてしまった要人を、一夫は気遣った。

「いや、責めてませんで。仕方ない思てます。わしは、わかってましたから。……わかってへんのは、領ちゃんや……。かわいそうに。自分のほんまの気持ちを閉じこめてしもてるから、いつまでも、寝言でしか、本音を出せへんまんま……。社長も、そやろ?何とか、したってもらえませんか?……領ちゃんが、不憫や……。」


……何とかと言われても……。


こと領子に関してだけは、要人は臆病になってしまう。


どれだけ自分が計画しても、懇願しても、領子は要人を選んではくれなかった。

しかも、今、自分は妻を亡くしたヤモメだ。


領子に自分と再婚してほしいと願うなど、ずうずうしすぎやしないか。



「……私に……資格はあるでしょうか……。」


要人の言葉に、一夫の眉間に皺が寄った。


「はあ?何ゆーてはるんですか!資格て、なんですか?……ほな、社長、ちょっと聞きますけど、領ちゃんと結婚した時のわしには、その、社長の言う『資格』があった思いますか?あるわけないやん、そんなもん。領ちゃんが好きやって気持ちだけでしたわ。……社長も、四の五のゆーてんと、腹くくってください。」


一夫の剣幕に、要人は反論しなかった。


……確かに……俺には、一夫くんの率直さは、ない。



いつまでも黙っている要人に、一夫は痺れを切らした。

そして、珍しく、きついことを言った。

「……そんな風にいつまでも煮え切らん態度やから、領ちゃん、社長のとこに行けへんのちゃいますか?」



さすがに、カチンとした。


しかし要人は、何も言わず……少し冷めたコーヒーを飲み干した。


そして、立ち上がった。


見上げる一夫を上から見下ろして、要人は言った。

「全ては、領子さまのお心次第です。一夫さんといくらこうして話し合っても、埒があきません。失礼しますよ。」


「社長!逃げるんですか?」

一夫もまた立ち上がった。
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