いつも、雨
そして、今日のスケジュールと資料を原から受け取った。


老眼鏡をかけてから何気なく目を落として……要人は、すぐに顔を上げて、原を見た。


「……君にまで、けしかけられるとは思わなかったな。」


要人は、受け取った資料をひらひらと振って、苦笑した。


いつもの資料の体裁をとってはいるものの、中身は、当日予約可能なホテルのスイートルームのリスト、主立った花屋と季節の花のアレンジプラン、そして、長年世話になっている宝石商が現在所有している上質な宝石の中で、すぐに指輪に加工可能な石の写真……。



「仕事ですから。」

敢えてクールに、原はそう言って捨てた。


「こんなもん、仕事じゃないだろ。……ありがとう。」

要人は心からそう言って、頭を下げた。


「仕事ですよ。社長のことは、なにもかも、俺の仕事です。やめてください。……いつも通り、憎たらしいくらい、堂々としてらしてください。……それを、亡くなった奥さまも望んでらっしゃると思います。」


原はそう言ってから、ふっと笑った。


「……それにしても……一夫さんは、自分の奥さまにも、社長と再婚するようにと、告げたのでしょうかね。……普通に考えて、そんなこと旦那に言われたら、怒りますよね。……夕べは修羅場だったんじゃありませんか?」

少し面白がっているらしい。
 

要人は、老眼鏡をはずして、苦笑した。


「そうかもしれんな。……言わなくていいのに、わざわざ言って、波風を立ててそうだな。……領子さま、一夫くんに対しても、俺に対しても、怒ってらっしゃいそうだな……。」
 

「はい。間違いなく、社長に対しても、怒ってらっしゃると思います。……健闘を祈ります。」

原はそう言って、くっくっく……と、笑った。




……笑え、笑え。

こんな老いぼれになっても、少年の頃と何も変らない自分と領子の関係を、要人も、今となっては面白がっていた。


滑稽だな。


……しかし、本気だ。


いや、本気だから、滑稽なのだ。

仕方ない。



開き直って、要人は顔を上げた。


「決めた。午前中に全て整えてくれ。揃ったら、ご自宅まで領子様を迎えに行く。」


原は、笑いをおさめると、いつも通り慇懃無礼なほどにうやうやしく頭を下げた。

「すぐに手配いたします。」



頼もしい秘書に、要人はうなずいて見せた。
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